祭りと花火ととグラサン少女
「祭りと花火とグラサン少女」
〜1〜
【宣戦布告】 夏の雪山で起こった、悲劇の殺人事件から、一か月が経過していた。
暑さが少し和らいで来ていた、そんな九月……。
秋学期開始日、僕は気持ち新たに、これからの学生生活を過ごすつもりだった。
しかし、世の中はそう甘くないということを、いきなり首元に突きつけられてしまった僕は、ただ、ため息をつくしかなかった。
その事件は、秋学期説明会が終った後、僕たちのサークル「アルバムズ」の部室に突如現れたある人物によって引き起こされた……。
時間は、少し遡る。
秋学期説明会。思えば、その時間がこの事件の発端だったかもしれない。
「さて、諸君。この夏休みは、勉強に、アルバイトにと、それぞれ持ちうる最大限の努力を持って、有意義に過ごしたと思う! 秋学期は、夏休みに得た経験・知識を生かし、更なる人間性の向上に力を注いでもらいたい!」
こう熱く語ったのは、大学の学生指導教諭だった。
僕のいる大教室には、この大学の一年生がすべて集められていた。
話によれば、毎年、一年生はこの学生指導教諭の演説のような長い話を、必ず各学期の説明会にて行われているらしい。
延々三十分語り続けた学生指導教諭は、ようやく話を結論に持っていこうとした。
しかし……。
「ちょっと、さっきから何ですの!? 話が長すぎるんじゃありません!?」
そんな声が、突然教室に大きく響き渡った。
一瞬にして教室は静まり返った。教壇に立つ学生指導教諭は、眼を点にして、黙ってしまった。
そして……僕の方にみんなの視線が集まった。
何故か。その理由は意外と簡単だった。
僕の隣、いや、僕の隣いくつかの席を開けて座っていた、女の子に注目が集まったからだった。
ずっと気になってはいた。秋学期説明会の開始より、その女の子の周りには、前後左右、まったく誰も座っていなかったのだ。
だから、実質一番席が近い僕に、視線が集まってしまったように見えたのだ。
「大体、暑苦しいですわっ。夏だというのに、こんな教室に人を詰め込んで、三十分も話をするなんて。」
その女の子は、鋭く言い放った。
丁寧にカールされている金髪を持った女の子。薄いオレンジ色のブラウスに、水色のロングスカート。
身に着けている装飾品は、いかにも高級そうな腕時計やピアス、ネックレス……。
「これ以上話を続けると言うなら……たとえ学生指導者であっても、容赦しませんことよ?」
女の子はキッと鋭い目つきを、学生指導教諭に放った。
それに対して……
「文学部一年、小鳩真理、か。」
学生指導教諭は、落ち着いた口調で返した。先ほどまでとの熱血教師スタイルとは打って変わって、冷静そのものになっていた。
「いいか、ここは教室で、今は説明会の時間だ。話を妨害するなら、教室を出て行ってもらおうか。」
「あぁら? そんなこと言っていいのかしら?」
小鳩真理、彼女はそういう名前らしい。
その小鳩真理の挑発に、学生指導教諭は苦虫を噛んだような表情を浮かべた。
「まぁ……良いですわ。私、そこまで鬼じゃありませんから、大目に見て差し上げますわ。のどが渇きましたの。ここら辺で、私は失礼させて頂きますわ。オーッホッホ!」
小鳩真理は、高笑いしながら立ち上がった。
そこで、何を血迷ったか、僕は倣うように立ち上がり、パッと近づいて、小鳩真理の手を掴んでしまった。
正義感でも働いたのだろうか……後になって思えば、この判断は大きな間違いだった。
「なっ!?」
「……先生は、もうそろそろお話を終えるところです。少し待ってはいかがですか?」
驚愕の眼で、小鳩真理は僕を見つめた。
僕は、少し落ち着いてもらいたかっただけだった。しかし、それがさらに小鳩真理の神経を逆なでしてしまった。
小鳩真理が僕の手を振り払うと、僕を睨みつけ、言い切った。
「なんですのっ!? 私の手を掴むなどと! この無礼者! 乃木、この無礼者を始末して!」
僕は瞬時に背後からの殺気を感じ取った。さっと振り返ると、そこにはスーツ姿の大男が腕を振り上げて僕に殴りかかろうとしていた。
しかし……死線を潜り抜けてきた僕にとって、その大男の動きは非常に鈍いものだった。僕は、大男の攻撃を紙一重で交わした。
それと同時、教室に悲鳴が響き渡った。他の学生たちが混乱状態になってしまったのだ。
一目散に教室から逃げ出そうとする学生たち。その中には、あの学生指導教諭の姿もあった。
その光景を横目で見ながら、僕は大男の動きを監視した。
「私に刃向ったこと、後悔させてあげますわ! 行きなさい、乃木!」
小鳩真理は、憎しみたっぷりの表情で、僕を見ていた。
大男は、腕をぶんぶんと振り回しながら、僕に近づいてきた。大男の背丈は、僕とさほど変わらないが、身体つきは針金と電柱だ。
まともに一発でも殴られたら、死んでしまうのではないかとさえ思った。
僕は、次々と大振りで拳を振り回してくる大男の攻撃を避けていった。
しかし、いつの間にか僕は教室の隅へと追いやられてしまった。
「くっ……、困りましたね。」
「さぁ、追い詰めたわよ。」
万事休すか、そう思った矢先、教室に男の声が響き渡った。
「真理! そこで何をしている!」
教室の入り口に、見覚えのある男が立っていた。
……大学の学長、小鳩源太郎だ。小鳩真理……そういうことだったのか。
「お父様っ!?」
小鳩真理は、それまで真っ赤にしていた表情を一瞬にして元に戻し、小鳩源太郎に向き直った。
「また勝手なことを! 今すぐ学長室に来なさい!」
「で、でも……。」
「今すぐだ!」
がっくりと肩を落とした小鳩真理は、僕を見て「勝負はお預けですわ」と言い、大男を連れて教室を出て行ってしまった。
教室には、ただ僕一人が、取り残された。
>>>
「水原、お前バカだなぁ。」
秋学期説明会での事件を、僕はサークルの部室で蒼谷ゆいに一通り話した。
その発言は、話し終った直後、蒼谷ゆいが僕に言った言葉だった。
「有名じゃねぇか、小鳩真理って。大学の学長の娘。見た目は綺麗なお嬢様だけど、横暴で、自分の気に入らないやつは部下の大男にボッコボコに叩きのめしてもらう。それがたとえ、告白してきた相手だろうと、だ。水原、お前本当に知らなかったのか? 同じ学部の同じ学年で?」
黙って僕は頷いた。
「ったく……。何でも知ってると思ってたけど、意外にも世間の常識は知らないんだなぁ。」
「いや、蒼谷先輩には言われたくないです。」
「なんだとぅ!? やるかぁ!?」
ファイティングポーズを取った蒼谷ゆいだったが、何故かその構えを解いてしまった。
いつもなら、僕の肩に一発、拳をぶつけてくるぐらいのことはしていたのだが……。
「まぁ、でも命拾いしたと思うぜ。俺も大男が人殴ってるところ見たことあったけどよ、あれはマジだ。人殺しとか、あのお嬢様に命令されたら、マジでやりかねねぇ。」
「そうですね……。そう考えておきます。」
あの時、小鳩源太郎が教室に入って来なかったら……。僕はどうなっていただろうか。
万が一の事があれば、僕の中に潜んでいる【魔神レニオル】にどうにかしてもらうことも考えていたが、相手は生身の人間だったから躊躇っていた。
関係ない人を、巻き込むわけにはいかない。
「やっほー! ただいまぁ!」
ドアが開いて、大海なぎさが部室に戻ってきた。大海なぎさの後ろには、夕波みつきの姿もあった。
「あっ、水原君、おはよー。」
「おはようございます。」
既にお昼を過ぎているのだけれど、おはようと言うのも何だか悪くは無い気がした。
「十二月の大学祭の予定表を持ってきたから、みんなで読んで。」
夕波みつきは、テーブルの上に書類をいくつか置きながら、そう言った。
大学祭。この大学では毎年十二月に開催されているらしく、近隣の大学のなかでも特に大規模なものとして有名だった。
僕以外の三人は、二年生のため、既に一度大学祭を経験していた。唯一、一年生の僕だけがどんな大学祭なのか、まったく知らずにいた。
「んー、今年のテーマは【友情】かぁ。」
大海なぎさはそう呟いた。
どうやら、毎年大学祭にはテーマが設定されているようで、参加するサークルや団体はそのテーマに沿った出し物などを企画しなければいけないらしい。
企画が上手く行けば、新年度のサークル更新審査で好評価を得ることが出来る反面、失敗すると最悪のケース、サークル活動停止に追い込まれることもあると、夕波みつきは言った。 既に、春の写真展示会でそれなりの話題を大学内で持つことができたため、サークル活動停止は、ほぼ問題ないと思った。
「【友情】を写真でどうやって表現するか……誰か意見ある?」
夕波みつきは、僕たちにそう問いかけた。
しかし、すぐに良案が思い浮かばず、誰も答えられなかった。
「一応、企画書の提出は来週の月曜日みたいだから、今週末までに考えれば……。」
ガラガラッ!
夕波みつきの発言は、突然開いたドアの音によって中断された。
いったい誰かと思って、僕たちはドアの方を見た。
「見つけましたわ。水原月夜。」
学長の一人娘。小鳩真理が、そこに居た。
「先ほどは、よくも私の邪魔をしましたわね。」
「どうして、僕の名前を?」
小鳩真理は、ふんっ、と鼻を高くして僕を嘲笑うかのような表情を見せ、答えた。
「私は、学長の娘よ? 調べようと思えば、簡単に調べられるのですから。」
「あれれ? 確か、一年生の小鳩さんだよねぇ?」
腰に手を当て、身分を自慢しているかのようなポーズを取る小鳩真理に対して、大海なぎさがいつもの調子で、そう尋ねた。
「もしかして、私たちのサークルに入部希望なのかな? そうだったら嬉しいな。」
満面の笑みを浮かべる大海なぎさに、やや怖気づいたのか、半歩下がった小鳩真理。
「私たちのサークルは、人が少ないから、誰でも大歓迎なんだけれど。」
さらに追い打ちをかけるように、夕波みつきがそう言った。
「な、な、なんですの? 別に私はサークルなどというお遊びをしに来たわけじゃありませんわっ!」
「えぇ〜、なんだぁ、残念だなぁ。」
「それより、水原月夜!」
ズバッと指を僕に向けて、小鳩真理は言い放った。
「今すぐ、先ほどの無礼を謝罪しなさい! 私がわざわざこうして出向いて来ただけでも、大変ありがたく思うほどの謝罪をしなさい!」
話が分からないとばかりに、夕波みつきと大海なぎさは僕に視線を向けてきた。
説明をするのは、とりあえず後にして、ここは謝るべきかどうかを少し考えた。
「謝罪をすれば許してあげるわ! いつもなら乃木に殴り倒してもらうのだけれど、あなたの細い体じゃ一発殴られただけで死んじゃうでしょう? あぁ、本当、私はなんて優しいのでしょう。跪く愚者に愛の手を差し伸べる私。さぁ、謝罪しなさい。それとも土下座が良いかしら?」
おそらく、言葉で挑発するのが目的らしい。
普通の人間なら、我慢に耐え切れず、拳を上げるだろう。
「なんなら、私の靴を舐めさせてあげても、よろしくてよ? いえ、下僕にさせてあげましょうか? 一生こき使ってあげるわ。」
「僕が、その程度の挑発に乗るとでも?」
客観的に見ても不気味だと思える微笑を、僕は浮かべながら、そう答えた。
「甘いですね。僕は子どもの口喧嘩には参加しないタイプなんです。もっと高尚な会話のできる人間、例えば、そこの夕波みつきさんのような方でしたら、少しは口も利きましょう。」
この僕の発言に対して、小鳩真理は鬼も逃げ出すような恐ろしい形相を浮かべた。
しかし、僕の反撃は、これだけに留めない。大男を呼ばれる前に、さらに攻めることを決断した。
「それとも……あなたは口喧嘩でなく、実力行使で僕を屈服させるのですか? また先ほどの大男を呼んで、自らの手を汚すことなく、あなたの考える悪を抹殺するのですか?」
あの大男を呼ばれないようにするための、予防線だった。
こう言っておけば、ブライドが高いであろう小鳩真理は、迂闊に大男を呼ぶことは出来なくなる。
「僕は、何も間違ったことはしていないと思っています。 説明会を穏便に続けたかったという理由もありますが、あのような発言をされたあなたの立場を守りたかったのでもあるんです。」
小鳩真理は、目に涙を浮かべ、唇を噛み締めながら、僕を睨みつづけていた。
「むしろ、僕に暴力を振おうとしたあなたが、僕に謝るべきではないでしょうか? どういう謝罪がよろしいでしょうか。謝罪文を書いて読みますか? 土下座ですか? それとも僕の靴を舐めてみますか? それとも。」
さらに僕は言葉を続けようとした。 しかし……。
「水原……。事情は知らないけれど、もうやめてあげて。」
夕波みつきがそう言いながら、目から涙を溢れさせている小鳩真理に駆け寄ったところで、僕の口は止まってしまった。
「ごめんね。水原とあなたの間に何があったか知らないけれど、ごめんね。」
夕波みつきはポケットから取り出したハンカチで、小鳩真理の涙をふき取りながら、そう言った。
……僕も、少し挑発しすぎてしまったかもしれない。
「……るさない。」
「えっ?」
「絶対に許さない! 覚えていなさい! 水原月夜!」
夕波みつきを振り切り、そう言い残して、小鳩真理は部室を出て行ってしまった。
それぞれ、複雑な表情を浮かべ、僕たちは小鳩真理が去っていった方を見続けていた。
>>>
「事情は、わかったわ。なんだか、新学期早々、とんでもないことになりそうね。」
「申し訳ありません。僕が余計なことをしたばかりに、皆さんにまで迷惑をかけてしまって……。」
「気にしないで、水原君。大丈夫だよ、きっと、ちゃんと小鳩さんと話せばなんとかなるよ。」
小鳩真理との事情を夕波みつきと大海なぎさに話した僕は、改めて、事の重大さを考えた。
相手は、この大学の学長の娘だ。下手に出れば、学校そのものが動く可能性さえあると思った方が良いだろう。
「はぁ、なんだかなぁ。俺、あいつヤダなぁ。靴を舐めさせるだの、土下座しろだの。 俺が水原の立場だったら、もう後先なんて考えずに殴っちまってるところだったぜ? まぁそうでなくても、さっき、すっげぇ殴りたかったけどさ。」
「もう、蒼谷君。女の子に手を上げちゃダメだって。」
「あっ……あ、あ……。その、ごめんなさい。」
蒼谷ゆいは、大海なぎさに注意され、しゅんと肩を落とした。
でも、蒼谷ゆいはそう言った点では、一般人の感覚に非常に近いところがあるのかもしれないと思った。
どうも周りには、ちょっと変わった人が多い。夕波みつきの冷静な部分や、大海なぎさのふわふわした部分と比べたら、 蒼谷ゆいは、勉強こそ苦手なものの、世間の代弁者としての役割を、サークルで果たしているような気がしている。
「とりあえず、水原はこの件を解決させた方が良いと思うんだけれど。サークルのことは私たちに少し任せて。」
「えっ? いや、しかしそれは……。」
マズい。それはマズい。
元々は、夕波みつきの行動などを調査し、右京こまちに報告することが僕のサークル内での目的だった。
それなのに、サークル活動を少し休んで、小鳩真理とのいざこざを解決するとなると……。
「うん。私もそう思うよ。」
大海なぎさの票まで入ってしまった。残るは蒼谷ゆいだが……。
「まぁそうだよな。女子との関係は良好に済ませておくべきだと思うぜ?」
言わずもがな。蒼谷ゆいは、必ず大海なぎさと同じ方向の意見を述べるしか頭になかった。
溜息をついて見たものの、三人にはまるで効果が無かった。
「あっ、そうだ。ついでにさ、小鳩さんもサークルの仲間に入ってもらえるように言ってもらっても良いかな?」
さらなる追い打ちをかけてきた大海なぎさ。
あっという間に、僕は、小鳩真理との関係を修復し、サークルに加入してもらうよう説得する役目を請け負ってしまった。
反論の余地は、残されていなかった。僕が口を挟むタイミングは、たったの一秒も与えられなかったのだ。
結局、僕は小鳩真理との関係を修復するために、行動に出るしかなかった。
>>>
事態は、思わぬ展開を迎えていた。
この大学の授業日程は、すし詰めでは無いか、と思えるような構成になっていた。
十二月に行われる大学祭の日程調節のため、秋学期の授業開始が、秋学期説明会の翌日から早速入っていた。
そんなわけで、僕は一時限目からの講義に参加するため、朝八時半に、校門を潜った。
すると……。
「待ってましたわっ!」
僕の正面に、小鳩真理が立ちはだかった。
僕の身体を視線だけで貫こうとしているような、そんな目つきをした小鳩真理。
「僕は、待ってもらうようお願いしていませんが……。」
「お黙りなさい! 今日は、あなたに勝負を申し込みに来ましたの!」
「勝負、ですか?」
急に変なことを言い出した小鳩真理を、僕はまじまじと見つめた。
「昨日私が出向いて差し下げた、あの部室。あなたのサークルの部室なんですってねぇ? サークル『アルバムズ』。写真を撮影することを目的とした、お遊びサークルだと、サークル設立許可書には書いてありましたけど。 部員はたったの四人。だというのに、あのような大きな部室を使用しているだなんて、ちょっと贅沢じゃありませんこと?」
まぁ、確かに他の部室に比べれば、僕たちの部室は広かった。
しかし、それは偶然広い部室が空いていたところに僕たちが入れただけで、僕たちが希望して無理やり入ったわけではなかった。
「ですから、私があの部室を代わりに使って差し上げますわ。もちろん、あなたは納得しないでしょうから、勝負という形に致しますけど。」
「その勝負を受けない、と答えたら、どうするんですか?」
僕の質問に、小鳩真理は僕を見下すような目つきでこう答えた。
「その時は、お父様にお願いして無理やりあなたのサークルを活動停止にして差し上げますわ。」
「……勝負の内容を教えてください。僕は生憎、サークルの部長では無いので、勝負を受けるかどうかの決定権を持ち合わせていません。」
コホンとわざとらしく咳払いを一つした小鳩真理は、勿体ぶるように言った。
「よろしいですわ。教えて差し上げましょう。簡単なことですわ。十二月に行われる大学祭で、私の出展するブースと、あなたのサークルが出展するブースで、どちらがより多くの人を集められるか……。もし私の方が勝ちましたら、あなたのサークルの使用している部室を私が頂いて、私専用の部屋にして差し上げますわ。その方が、あれだけ広いのにほとんど有効活用されていない部室も、大変喜ぶでしょう。……それと、ついでに、あなたを私の下僕にして差し上げましょう。毎日、私の靴を舐めて綺麗にして頂きますわ。」
「僕たちが勝ったら?」
「私があなたにしたことや、あなたに言った発言をすべて撤回・謝罪で良いですわ。」
割に合わない。この勝負を受けるには、あまりにリスクが高すぎる。そう思った。
「あら、不服かしら? それとも、私の靴をどうしても舐めたいのかしら?」
「……僕たちが勝ったら、あなたも僕たちのサークルに入部する、という条件を受け入れてください。」
その僕の発言に、小鳩真理は一瞬、きょとんとした表情で僕を見た。
「はぁ? お遊びサークルのお遊びに、私が付き合えと言うのかしら? まぁ良いですわ。その程度の条件でしたらいくらでも受け入れて差し上げますわ。これでも私、とても寛大ですもの。」
「先ほども申し上げましたが、僕自身に勝負を受けるかどうかの決定権はありません。部長に相談してから、返事をさせて頂きます。」
「よろしいですわ。でしたら、明日の同じ時間、ここでそのご返事を頂きたいですわね。」
小鳩真理は僕にそう言い残すと、背を向け、さっさと校舎の方へ向かって行ってしまった。
部長である夕波みつきは、この勝負を受けるだろうか。
いや、受けなければ、サークルの活動を停止されかねない。それは夕波みつきにとって望ましくないだろう展開だ。
そして、僕にとっても……。
続く