はじまりの魔法とグラサン少女



はじまりの魔法とグラサン少女 


〜1〜


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その時の僕と言えば、できることなら、世界を救いたくは無かった。
世界を救ってしまえば、それまで築いてきたものが、すべて崩れ去ってしまうからだ。
大切な人も、懐かしい故郷も、豊かな自然も、僕が世界を救ってしまえば、無くなってしまうからだ。

だけど、誰かが世界を救わなければ、どちらにせよ人間は滅んでしまうという。

「はじまりの魔法」という、世界でもっとも酷い呪いをかけられてしまっている人間は、
このままでは死よりもなお辛い苦しみを受け、滅んでしまうという。

世界を救っても救わなくても、結果として人間に与えられる道は、滅亡だけ。

それを知らされた時、僕は、それなら世界をわざわざ救う必要はないと思った。
世界を救うために背負うリスクがあるのならば、そんなことをしても意味がない。

でも、世界を救え、世界を救えと、”やつ”は急き立ててくる。

【世界を救え。「はじまりの魔法」の力を喰らって、世界を救え。】

常に、僕の頭の中にその言葉がこだまする。
姿を見たことはないが、その声が”やつ”であることはなんとなくわかる。
そして”やつ”の思考が、無理やり僕の頭に入ってこようとする。
僕の思考なのか、それとも”やつ”の思考なのか、時間が経つにつれて判断できなくなった。

そして、僕は人智を超えた力に触れる。
「はじまりの魔法」を喰らうための力を得る。
世界を救うための力を得る。

自分を、大切な人を、この世界を守るために、僕は・・・。



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「・・・そこをどいてもらいたいのですが」

インテリそうな印象を受ける銀縁メガネをかけた、黒短髪で長身の男が、
眼の前の異形なモノたちに対して、あくまでも冷静な口調でそう言った。

そこには、この晴天の下にも関わらず、闇よりも暗い黒のマントを羽織ったモノたちが10数体いた。
やつらの体は浮遊しており、マントの中に、ボウリング玉サイズの丸い胴と、そこから生える無数の腕が見える。

「見つけた、見つけた、世界に害なす人間」

顔どころか口も見当たらないのに、そんな言葉を言ってくる。
その声を聴くだけで、どこか心の中にドス黒い不快感がなだれ込んできて、思わず呻きたくなるが、それをこらえる。

「人間の精神を恐慌状態にする呪い・・・しかも結構強力ですね。」

男は、周りを見回し、上手く次元を歪めることができているかどうかを確認する。そういう呪いを予めかけておいたのだ。
こうやって次元さえ歪めておけば、人間世界にこの悪霊たちが悪影響を及ぼすことは無い。
つい最近使えるようになったばかりだったから、上手くできるかどうか少し不安だったが、
どうも呪いを扱うことに長けている素質があったようで、それは杞憂に終わった。

「・・・でも、僕は毎日何度も死にそうな目にあっているので、さすがに慣れてしまいましたよ。」

ため息をつきながら、そうつぶやくと同時、悪霊たちが一斉に襲い掛かってきた。
軌道をずらしつつ回転しながら高速でグングンと迫ってくる。

「今日も、早めに帰らないと、また怒られて殺されかねないので・・・とっとと片付けますが。」

男はまるで余裕を見せるように銀縁メガネをはずしてケースにしまい、それを持っていたカバンの中に入れる。
その間にも、悪霊たちは距離を縮めてきて、あと2秒ほどでぶつかるというとき。

「それじゃあ、レニオルさん。あとはお願いします。」

男のあと数センチまできた悪霊たちは、突然動きが止まり、数秒してそれらは一気に弾き飛ばされた。

【結構ギリギリじゃないかい、水原くん? 今の判断は。】

水原と呼ばれた男・・・水原月夜の体のどこからか、別の男の声が聞こえた。

「レニオルさんなら、余裕で対処できると思っていましたが。」
【むぅ・・・まぁ君らしいと言えば君らしいけど。
 今のタイミングなら、確かにまとめて弾き飛ばすには一番よかったよ。】
「なら、それで良いじゃないですか?」

レニオルと言う声の主は、少しため息をついた。

【ただ、相手がよかったからの話だよ。これがヴァンネルやカロッサなら、君の命は無かった。】
「状況に応じて、対策は変えますよ。それに、あなたは私が死なないように守ってくれる。」
【困ったときの神頼みじゃ、長くは持たないよ。】
「・・・肝に銘じておきます。」

弾き飛ばした悪霊たちが、起き上がり、こちらを警戒するように周りを囲みはじめたのを確認する。

「しかし、ここまで頻繁に悪霊と戦闘を繰り広げることになるとは思いませんでしたよ。
 右京こまちが、外に出たがらない理由がよくわかりますね。」

水原月夜が「右京こまち」と言うと、悪霊たちはその言葉を反芻し始めた。

「右京こまち、【九神霊】の敵、右京こまち、【九神霊】の敵、右京こまち・・・」
「・・・予想では、結構高位の悪霊かと思いましたが、意外とそうでもないですね?」

水原月夜はそう問いかけるが、悪霊たちはそれにこたえる様子もなく、ひたすら同じ言葉を繰り返す。

「会話もできない・・・と。それじゃあ情報収集はできなそうですね。では、本気を出しましょうか。」

持っていたカバンを横に放り投げ、水原月夜は戦闘態勢を取った。


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「・・・無事帰って来たな。」
「この姿を見て・・・よくそんなことが言えますね。」

僕は、ため息をついてからそう答えた。
悪霊たちとの戦闘を何とか終えて、僕が今住んでいる家・・・というよりは、右京こまちの所有する屋敷に帰ってきたのは、
太陽がすっかり沈んでしまい、代わりに月が空高く登っている頃だった。

この屋敷の主である右京こまちは、僕のボロボロの姿を上から下まで見た後、やはりこういった。

「・・・ふむ、やはり無事に帰って来たな。」
「はぁ・・・」
「命があるだけ、儲けたと思った方が良い。私が昔に渡したお守りがなければ、とっくにお前は死んでいる。」

お守り、そう右京こまちは言った。

まだ、僕と右京こまちが出会って間もない頃。僕は右京こまちに呼び出され、突然1つのお守りを渡された。
見た感じでは、普通の「交通安全」のお守りだったが、右京こまち曰くカモフラージュらしい。
いざと言うとき、僕を悪霊や呪いから守ってくれるというのだが、いまだにその効果を発揮した様子がない。

だから僕は、この身の内に隠した【九神霊】の【魔神レニオル】の協力を得て、なんとか危機を脱するのだ。

右京こまちは、まだ【魔神レニオル】の存在には気づいていないと思うから、
お守りの効力で僕が生かされていると勘違いしているだろう。
それは僕にとって、とても都合が良い。まだまだ、右京こまちには利用価値がある。
僕を守る必要がないと右京こまちが判断したら、僕が不利になるだけなのだから。

「それで・・・報告を聞こうか。」
「えぇ、さっさと話して、僕はもう眠りたいですから、そうさせていただきますよ。」

僕は、体中についた埃を払い、1つ呼吸を置いてから、言葉を続けた。

「まず・・・ここ数日、夕波みつきの周辺に怪しい影が出てきています。僕の予想では・・・」
「悪霊、か。 まぁ、そろそろ発見される頃とは思っていたが。」

僕の考えに反して、右京こまちはそんなことを言いだす。
まったく、話は最後まで聞いてほしいものだ。

「・・・違いますよ。相手は人間です。」
「何? どういうことだ。」
「何者かに、夕波みつきは狙われている、ということです。悪霊じゃなくて、人間に。」

わからない、と言いたげな表情を見せる右京こまち。
やはり、まだ現状の情報についてアドバンテージを持っているのは僕のようだ。

「今日、朝9時から午後1時までの4時間、夕波みつきとともに行動していましたが、
 僕でもわかるような鋭い視線を感じまして。首の後ろがチリチリと痛むような感覚だったので、
 後ろを振り返ってみれば、黒スーツの男数人がこちらを見てましたよ。」
「そいつらの正体と目的は?」
「・・・すぐにわかるものではありませんよ。」

そこまで、単純にはいかない。
情報を集めるということは、時間も労力も結構使うのだ。

「それに、見てお分かりかと思いますが、夕波みつきと別れた直後、僕は悪霊たちに襲われました。
 あの姿は・・・確か異界で見た「クィドル」だったかと思います。」
「「クィドル」が、こっちの世界にも来ているのか・・・。あの【呪曹カロッサ】が裏で糸を引いているのは間違いないな。」

「クィドル」は、昼過ぎに僕が遭遇した、黒いマントのなかに無数の腕をはやした球体を持つ悪霊のことだ。
【九神霊】の1人である【呪曹カロッサ】の部下であり、異界でも実際に戦った。

「黒スーツの男たちと「クィドル」の関係がどこかにあると考えることも可能ですが、
 不可解な行動ですよ。見張るだけの黒スーツの男、僕を襲撃するだけの「クィドル」・・・」
「・・・ちょっと待て。あぁ・・・マズいぞ。」

急に右京こまちが真剣な表情を見せたかと思うと、僕の鳩尾に突然右の拳を放ってきた。
とっさのことに僕は反応することができず、見事に命中する。
思わず呻き、その場にうずくまる。

「こんなことをしている場合じゃない。水原、肝心なところで判断を違えるな。」
「な・・・なにを・・・」

そこで僕は気づく。
何故、僕が夕波みつきと別れた直後に「クィドル」に襲撃されたのか。
見張っているだけの黒スーツの男たちの目的が何なのか。

腹部の痛みを抑えようと、なるべく負担がかからないように立ち上がる。

「そ、そういうことですか・・・。」
「わかったら行くぞ、一刻を争う。」
「・・・はい。」

僕は、先に行く右京こまちの後を追った。
目指すは・・・夕波みつきのところ。


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今日は、数か月ぶりに水原に会い、話をすることができた。
最近はすっかり仕事も忙しくなってしまっていて、お互いに会うことができなかったのだ。

「・・・と、言っても。水原は相変わらず何をしてるのかもわからないがな。」

ぽつり、そう呟く。



大学を卒業して、6年は過ぎただろうか。
今までいろいろあったけど、なんとか生きてきたことを思い返す。

ここまで波乱に満ちた人生を送れた人間が、果たして居ただろうか?

きっと私ぐらいだ。

そして、私に残された時間はそろそろ・・・。



人目を避けるため、商店街の大通りを避け、細いわき道にそれる。
数歩歩いたところで、急に足元がおぼつかなくなる。思わずそばにあった、汚れた細いパイプを掴む。
立っているのも、少々辛い。さすがにこの日差しの強い夕刻に、帽子もグラサンもつけなかったのは失敗だった。
眼の前がぼやける。立ちくらみにも貧血にも似た症状だが、その原因は、不明。
大学病院をいくつか回った時もあったが、検査結果は異状なし。そんなことがあるはずはない。

「はぁっ・・・はぁっ・・・」

呼吸は次第に荒くなってきた。このままではマズい。
クラクラしてきた頭を抱えながら、なんとか脳を回転させる。

「大丈夫。」

誰かが、後ろから声をかけてくる。いつも聞く女性の声。
その言葉に返事をする気力は残って無い。

「・・・」
「もう、そろそろ。時間になるわ。」
「・・・」
「時間になれば、もうあなたが苦しむことは無いよ。」
「・・・」
「私があなたの苦しみを取り除いてあげることができるから。
 次に、太陽と月が重なるときまで、あともう少しだから。」

太陽と・・・月? 初めて聞いた、その言葉。

「だから、待っていて・・・。」

振り返ろうとするが、体が思うように動かない。全身の力が・・・。

・・・


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「目標を捕捉した。」



黒いスーツの男たちは、夕波みつきが倒れたことを確認すると、彼女の周りを取り囲んだ。
そのうちの1人が、トランシーバーのようなもので誰かに連絡を取っている。

「・・・しかし、倒れて意識を失っている。どうすればいい?」

「・・・了解した。捕らえた後、そちらへ連行する。」

何度か誰かと応答を繰り返した後、トランシーバーをしまった男は、他の男に指示を出す。
すると、1人はロープを、1人は大きな段ボール箱、1人はこれまた大きな台車を用意する。

そして、倒れている夕波みつきへ、ロープを取り出した男が手を伸ばした・・・その時。



「おい、お前たち。そこで何をしている。」



きっちりとした燕尾服を身にまとった、するどい目つきの男が、大通りにつながる入口に1人立っていて、そう言った。
20代半ばと思われる整った顔立ち、身のこなしに隙のようなものは無く、
かなりの警戒心と、どこか近寄りがたいオーラを放っている。

「黒服の不審者が最近出没しているという話は聞いていたが・・・誘拐が目的の集団か。」
「な・・・なんだお前・・・。入り口には見張りを・・・んなっ!?」

燕尾服の男は、地面にあった何かをグイッと持ち上げる。
意識を失ってしまっているような、黒いスーツの男だった。

「こんな夕方の、しかも人通りの多いところから一歩入る細い路地の入口に・・・怪しすぎる黒服の男。
 何をしているのか、と尋ねたところ、急に襲ってきたから、申し訳ないが無力化させてしまった。」

ドサッと、乱暴に黒いスーツの男を地面に落とす、燕尾服の男。

「く・・・くそっ、発見者は残らず始末しろという指示だ! 殺れ!」

黒いスーツの男たち・・・さらに、その男たちの影から、人間ではない何かが出現し、一気に燕尾スーツの男に襲い掛かった。
そして・・・


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「こまちさん、どうですか? 夕波みつきの居場所は?」
「せかすな、今探している。」

僕と右京こまちは、夕波みつきに危機が迫っている可能性があることを悟り、右京家の屋敷を飛び出した。
右京こまちは、夕波みつきの発しているわずかな呪いの痕跡を頼りに、東奔西走していた。
綺麗な風車を片手に持った右京こまちを先頭に、僕はその後ろをついていく。

走っている方向とは全く別に向いている風車は、ものすごい勢いで回転している。
目標がいる場所に向く性質・目標との距離が近いほど高速回転する性質が、この風車にはあるらしい。

「こっちだ。」
「はい。」

急に方向転換する右京こまちになんとか合わせる。

この右京こまちは、紺を基調とした和服を身に着けており、腰には長剣という、いかにも時代錯誤的な格好をしているが、
なぜか通り過ぎる人々は、彼女を奇異の目で見ることがない。これも、右京こまちが放つ呪いによるものだと本人は言う。
ではなぜ僕は見えるのだろうか。特定の人にしか見ることを許さないとでも言うのだろうか。

「だいぶ近くなってきたな。」

右京こまちの持つ風車が、ものすごい勢いで回転している。
もし、手で羽を触れようものなら、斬られてしまうかもしれない。

「ん、ここか?」

右京こまちが立ち止まる。
そこは、先ほどから走っていた大通りから、一歩入る狭い路地。
するとそこには・・・。

夕波みつきを肩に担ぎ、今にもこの場を離れようとしていた、燕尾服を身にまとっている男がいた。

その男の背後には、黒いスーツを着た男たちが数人倒れており、近くにあったと思われるゴミ箱はひっくり返っている。
他にも、大きな段ボール箱や台車。さらにはロープといった、まるで人を誘拐するために使うようなものも散乱している。

燕尾服の男は、僕たちを見て、口を開けた。

「・・・こいつらの仲間か?」
「お前は誰だ。その子をどうするつもりだ。」

右京こまちが敵意をむき出しにして、燕尾服の男の前に立つ。
臨戦態勢の右京こまちに、燕尾服の男は落ち着いた口調で言う。

「・・・別に名乗るほどの者じゃない。それに、この少女をどうかしようというつもりはない。
 ただ、倒れていたこの少女を、こいつらが誘拐しようとしていた。それを助けただけだ。」

男は、そういって後ろに倒れている男たちを指差した。
この倒れている男たちの姿は、よく見れば、確かに僕たちを昼間つけ狙っていた者だった。

「・・・その様子だと、お前たちは、この男たちの味方では無さそうだな。
 俺も、この少女を助けたところで、どうしたものか少し考えていたところだ。保護者なら・・・話は早い。」
「それじゃあ。」

無言で、燕尾服の男は肩から、気を失っている夕波みつきを降ろし、僕に引き渡してくれた。

「お前たちが何者で。この男たちが何者なのか。別に気にはしないが。
 ただ・・・気を付けた方が良い。このままだと、お前たちはかなりやっかいなことに巻きこまれるだろう。」

もう、十分に巻き込まれているということを言おうと思ったが、この男にそれを告げる必要があるかどうかを考え、
結局、言葉を飲み込んで、心の中にしまった。

「さて。長居をしてしまった。そろそろ失礼する。」

そういって、燕尾服の男は、僕と右京こまちの間をかき分け、さっさと大通りの方へ行ってしまった。
すぐに後を追ったが、大通りに出てみると、既に男の姿はどこにもなかった。

「・・・ちっ。何故だ。探査の呪いにも引っかからない。」

右京こまちは、舌打ちをしてそう言った。

夕波みつきは一向に目を覚まさないため、ここは一度、ここから近いインターネットカフェに行って、
今後の対策を練りつつ、夕波みつきが目覚めるのを待つことにした。


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「・・・さて、いったいどういうことだ、これは。何故、警察があの少女を誘拐しようとした?」

燕尾服の男は、大通りを離れた後、静かな住宅街に入り、止めていたバイクのエンジンをかける。
ブルルルンッと唸るバイクの音が、脳の思考をかき混ぜはじめる。
ポケットから、先ほどの男たちが持っていたモノ・・・警察手帳を取り出す。
それらに目を通してみると、あの男たちは結構有能な警官たちであったことを理解した。

「どこからの指示で動いているのか、聞いておくべきだったか。
 ・・・いや、俺がこの件に首を出す必要があるのか・・・?」

誰かに言うわけでもなく、ただの独り言であるはずなのに、疑問を何かにぶつけ続ける。

「・・・はぁ。巻き込まれたのは、むしろ俺の方か。
 まぁ、これでまたしばらく本業を放り出すことになるが・・・まぁ良いか。」

最後の言葉に、思わず自分で笑ってしまう。
久しぶりに、かなり面白いことに巻き込まれそうな自分が、懐かしく思えて。

バイクにまたがる。それまで行こうとしていた場所とは反対方向にバイクの先頭を向け、走り出す。
行先は・・・あの男の下だ。


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ついにそれを見つけた時、僕は歓喜に酔いしれた。
やっと、やっと、やっとやっと!
これで僕は、また一歩、世界を救うための力を得るという目的に近づいた。

「はじまりの魔法」がついに見つかったのだ。

長かった。とても長かった。
あまりに長い道のりすぎて、それまでに何を失いながらここまで来たか、忘れてしまいそうになっていた。
でも、その忘却も糧にして、やっと実を結ぼうとしている。

世界を救え、世界を救えと、相変わらず”やつ”は急き立ててくる。
世界を救え、世界を救えと、相変わらず”ぼく”は叫び続ける。

さぁ、はじめよう。世界を救うための力を。「はじまりの魔法」を得て、世界を絶望から救おう。
ここからが、本当のはじまりだ。世界を終わらせるためのはじまり。



世界を終わらせるための、呪いのはじまり。



続く