遭難事件とグラサン少女(中)




〜10〜



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「わぁあああああ〜 すっごいきれ〜い!」
「こ・・・こりゃすげぇ・・・」

なぎさと蒼谷が、感嘆の声を上げる。
無理もない。夏という季節にも関わらず、この山には雪が降り積もっているからだ。
私も思わず、驚いた顔をしてしまったほどに、そこには銀世界が広がっていた。

大学は、今は夏休み。私たちはサークルの合宿で、清宮山スキーエリアというところに来ていた。
この清宮山は、周りにある他の山とは明らかに違ったところがある。
最初にも言った通り、この清宮山には、夏にもかかわらず雪が積もっているのだ。
標高が同じような周りの山には、一切雪が積もっていない。
明らかにその異質さを放っているその山の姿を、私たちは写真に収める。

「・・・これは確かにすごいですねぇ・・・いったいなんでこの山だけ雪が積もっているのでしょうか」

私の隣で水原が笑顔を浮かべ、そうつぶやく。

「さぁな、色々調べてみたが・・・雪女の伝説とか、異常気象とかいくつか説があるらしいが。」

異常気象にしたって、この山が特別何か変わったものがある様子でもない。
ただ、やはり雪があるためか、夏にもかかわらず結構寒い。

「・・・まぁ、こんな貴重な自然を拝めるんだ。写真に収めておいて損はないだろう?」
「そーそー! はじめてみたよ、こんなの。でも・・・」

なぎさは、私たちのいる山のふもとから中腹、そして頂上まで見上げ・・・

「人、いないねぇ。」
「確かに・・・こんなおかしい自然現象が起きているのなら、少しは観光客がいてもおかしくないはずだよな〜。」

蒼谷の言うとおり、人がほとんど見当たらない。
スキーヤーの一人や二人いても良いとは思うのだが。

そう思っていると、山の方から1台の車がこちらに近づいてくるのを見つけた。
白いバンタイプの車。タイヤはにもちろん、雪でも走れるようにチェーンがついているようだ。
その車が私たちの前まで来て止まり、後ろのドアが開いて、若い女の人が一人出てきた。
おっとりした印象を持つ、丸いメガネをかけた小柄な女性。見たところ20代半ばぐらいだろうか。

「えーっと・・・サークル『アルバムズ』の皆さんでしょうか?」
「あ、はい。そうです。」
「どうもこんにちは。私は今回皆さんが宿泊するロッジのお世話係をしてます、枕崎早子(はやこ)と申します。
 よろしくお願いします。」

笑顔でペコリと頭を深々と下げられると、ついついこちらも頭を下げてしまう。

「こちらこそ、よろしくお願いします。」
「どうぞ、車にお乗りください。ロッジまでお送りしますので。」

早子さんに言われるがまま、私たちはバンの後ろに荷物を入れて、車に乗って出発した。
車が走り出すと、私たちはそれぞれまず自己紹介をした。
運転手は、早子さんのお兄さんで、名前は枕崎兼好というらしいが、どうも人としゃべることが苦手なようで、
あまり多くのことは口にしなかった。そのことを早子さんはすまなそうに言う。
そして、助手席に乗っていた早子さんは、私たちの方を向いて聞いてきた。

「都会は今暑いですよね? どうですか、ここは。」
「とっても寒いですよぉ。すごいですね、この山〜。 私たちの住んでいるところとはもう温度差が温度差がぁ。」

なぎさは、肩に自分の手を回し、寒いような表現をする。
それを見て早子さんは、笑顔で「ここはちょっと不思議な山ですからね〜。」と言ってくる。
早子さんも、この山の不思議な自然についてはわからないのだろうか?
その疑問を試しに聞いてみると、やはりわからないといった。

「まぁ、この山には古くから雪女の伝説が伝わっていますので、もしかしたら雪女がいるのかもしれませんね。」
「雪女って本当にいるんですかっ!?」

なぎさは目を輝かせて聞く。早子さんはもしかしたら、と言ったのだから、いるかどうかはわからないというのに。
まぁでも・・・幽霊が本当にいるのだから、実在しない、とも言い切ることは私にはできないのだけれど。

「いるかもしれない、ですよ〜。」
「・・・早子、あんまり怖がらせるようなことはだめだぞ。」
「大丈夫だよ〜。冗談だから。ごめんね? ちょっとお兄ちゃん真面目すぎちゃうところがあるから。」
「早子。」
「・・・はぁい。ごめんなさい。」

兼好さんは、早子さんとは少し対照的なところがあると思ったが、決して仲が悪いようでもないみたいだ。

「雪女かぁ。会ってみたいなぁ。写真撮りたいなぁ。」

なぎさは目を星のようにキラキラ輝かせ、そんなことをつぶやいている。
なぎさの隣に座っている蒼谷も、なぎさの様子を見ながら、「お、俺も雪女見てみたい気がするなぁ」とかなんとか。

「・・・それにしても、このスキー場・・・人を見かけませんが。」
「あぁ、人気が無いんだ。こんなスキー場は。」
「ちょ・・・ちょっと、お兄ちゃん?」

水原の質問に対して口を開けた兼好さんは、早子さんに構わず続ける。

「最近は、都会でも屋内スキーができる場所も増えたしな。人工雪の技術も進んでいる。
 わざわざ、こんな田舎まできて、スキーをしたい、なんて人はほとんどいないのさ。
 君たちは・・・スキーが目的というわけではないみたいだけど。まぁ、ここには大したものは」

そこまで兼好さんが言ったところで、早子さんが少し声を大きくしていった。

「ちょっとお兄ちゃん! お客さんに失礼でしょう?」
「・・・」
「ごめんね? 来て早々・・・」
「・・・いえ。こちらこそ、失礼な質問をしてしまったようで。どうもすみません。」

水原がそれを言ったきり、結局車内で、誰も口を開けることは無くなった。
それから40分ほど、車は走り続けた。


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「ここが、皆さんが滞在するロッジ『清宮山・徒然荘』です。」

私たちの目の前にある、早子さんに紹介されたそれは、3階建てのロッジだった。
屋根には結構な量の雪が積もっていて、いかにこの山でどれだけの雪が降るかがわかる。

「一見、木造に見えますけど、本当は鉄筋コンクリートを基礎に、外装と内装をロッジ風にしただけなんですけどね。」

そんな風に説明される。確かに、よく見てみると、丸太木だと思っていた外装は、
コンクリートの壁に縦に半分に切った木材がついているだけだった。

「ささ、ここは寒いですから中にどうぞ。」

ロッジの中に案内された私たちは、内装の意外なキレイさに少し驚いた。
和を基調とした、質素なロビーとフロント。フロントの前のロビーは、ちょっとした憩いの場になっているようで、
木目の茶色い大きなテーブルとイスがあり、その隣には暖かそうな火を灯している暖炉。とても落ち着けるような感じがする。
その場所の一角には、談笑している人たちの姿があり、どうやら私たち以外に客がいないわけでもなさそうだ。
ロビーの奥から、やや背の高い50歳ぐらいの中年の男の人がやってきた。
内装の和のイメージにマッチした、和服を着ていて、左胸には従業員バッチらしきものがあるため、
ここのロッジの人だというのがわかる。しかも、どことなく、早子さんと兼好さんに似ている。

「ようこそ、『清宮山・徒然荘』へ。私が、ここの経営をしてます、枕崎紀之(のりゆき)と申します。
 本日はどうぞお越しくださいまして、ありがとうございます。」

そういって、紀之さんは軽く会釈した。

「これから4泊5日、ゆっくりと大自然とおいしい料理をお楽しみください。」

そう、私たちは、4泊5日ここで過ごすのだ。
事前に調べたところによると、なかなかここら辺の料理はおいしいと評判があり、
山の幸がふんだんに使われた料理が出るのだという。そんな料理も、ぜひ写真に収めたいと思う。

「皆さんのお世話は、主に私の娘の早子がします。何かありましたら、いつでも呼んであげてください。頼んだぞ、早子。」
「はい、わかりました。皆さん、引き続きよろしくお願いします。それじゃあ、お部屋の方へ案内しますね?」

こちらです、と言われ、早子さんの先導のもと、私たちは滞在する部屋へと向かった。
そして、ここは3階。一番東側の2部屋の前。

「えーっと、夕波みつき様と大海なぎさ様は、こちらの左側の部屋『桐壺の間』です。
 蒼谷ゆい様と水原月夜様は、こちらの右側の部屋『藤壺の間』です。鍵はこちらになります。」

私たちは、1人ずつ鍵を受け取った。

「このドアはオートロックですので・・・閉じ込めには気を付けてください。一応、万が一閉じ込めがあった場合は、
 フロントの方まで来てもらえれば、私か父が常にいると思いますので、鍵をお開けします。
 食事の用意でたまにどちらもいないことがあるかもしれませんので、その時は申し訳ありませんが、1階の端、
 この2つの部屋の真下にある調理場まで来ていただければ居ます。」
「わかりました、ありがとうございます。」
「それじゃあ、何かありましたら、フロントの方か、部屋に電話がありますので内線で呼んでください。
 ご質問は何かありますでしょうか?」

私は特に質問もなかったため、首を横に振る。ほかの3人も特になさそうだ。

「それでは私は失礼します。ごゆっくりおくつろぎ下さい。」

そう言って早子さんは深々と一礼し、去っていった。

私たちは、それぞれの部屋に一旦荷物を置いて、30分後にロビーに集合することにした。


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決めた時間通りにロビーに来てみたが、まだ夕波みつきと大海なぎさの姿はそこには無かった。

「あ〜あ、ほらな? やっぱり、まだなぎさちゃんたち来てないじゃないか。だから言ったんだ、もう少し後でいいって。」
「・・・しかし、言われた通りの時間を守った方が良いと、僕は思いましたので。」
「お前、わかってねぇなぁ。女子っつーのは、こういう時は化粧直しとか、シャワーで軽く汗を流すとか・・・
 なぎさちゃんのシャワー・・・」

何やら、忠告が途中で妄想に切り替わってしまったみたいなので、蒼谷ゆいはとりあえず無視する。
と、そこでロビーの一角にあるテーブル席から、何やら大声が聞こえた。

「うわぁぁあああ、まーた! まーた負けた! くっそ。」
「ははは、これで私の5連勝だ。」
「・・・ほんっと、負けなしねぇ、白河先輩。それに比べたら鳥羽君は・・・」
「う・・・うるへー!」

そこには4人の男女がいて、麻雀をしていた。このロッジに着いたときから、そういえば彼らがそこにいた気がする。
ふと、その一人の、唯一の女の人がこちらに気づき、僕たちに声をかけてきた。

「あら、そこの君たち、麻雀に興味が?」
「・・・あ、いえ。そういうわけでは。」

横で、「きれいな人だなぁ・・・」と蒼谷ゆいがつぶやいた気がしたが、触れないで置く。

「珍しいな、私たち以外にここに来る客がいるってのは。」

女の人の向かいに座っていた、4人の中では一番年上のような、長身のがっしりした体型を持つ男の人がそう言った。
さっきの会話からして、たぶんこの人が、白河・・・という人だと思う。

「先輩、そんなこと言ってると、また枕崎さんに怒られますよ?」
「あぁ、それなら大丈夫だ。枕崎は私の親友だからな。」
「・・・と言ってて、いつも怒られてるじゃないですか。」
「うるさいっ」

うぎゃっ、という声を上げて、白河という人の右隣に座っていた男の人・・・鳥羽さん、だっただろうか。
その人が、白河さんに軽く頭を叩かれた。それだけなのに、わざとらしく鳥羽さんは椅子から転げ落ちる。

「ったく・・・。あぁ、すまないね、君たち。」
「いえ。まぁ、はい。」

何がすまないのかわからないので、曖昧な返事しか僕にはできなかった。

「そういえば、君たちさっきかわいらしい女の子たちと一緒じゃなかったかい?彼女たちはどうしたの?」

鳥羽さんがそんなことを聞いてきた。
もう約束した時間を5分ほど過ぎているが、一向に姿を見せない。

「ここで集合の約束をしていたのですが・・・時間になっても来ないようで。」
「お〜い! 蒼谷く〜ん。水原く〜ん!」

そんなことを僕が言うと、後ろの方から、大海なぎさの声が聞こえて、僕と蒼谷ゆいは振り返った。
そこには、やはりこちらに走って向かってくる大海なぎさと、その後ろを歩いてくる夕波みつきの姿があった。

「ごめんごめ〜ん。遅くなっちゃって!」
「だ、大丈夫だよ、なぎさちゃん。お、俺たちも今きたところだから!」

今・・・というには少し時間が経っているが、きっと蒼谷ゆいにとっては今なのだろう。
大海なぎさも、夕波みつきもしっかりと防寒着を来ている。背中に見えるリュックには、カメラなどが入っているのだろう。

「おぉ、ほらやっぱりかわいい娘ちゃんたちじゃ〜ん。」
「確かに鳥羽が言った通り、かわいい子だな。」

鳥羽さんと、白河さんが後ろでそんなことを言っている。
まぁ、確かに夕波みつきも大海なぎさも、かわいいという分類に入るだろう。
特に夕波みつきは小柄で童顔だ。きっと、彼らには夕波みつきが中学生ぐらいに見えているかもしれない。
大海なぎさも、それほどではないが、やはり小柄だ。

「でも本当に珍しいな、私たち以外にここを訪れる人は。」

白河さんがそう言うと、夕波みつきは僕に「この人たちは?」と聞いてきた。
肩をすくめるだけで答えると、白河さんは察してくれたのか、立ち上がって僕たちの方まで近づいてきた。
他の3人も、白河さんの後についてこちらに来る。
まず口を開けたのは、背の高い僕と同じぐらいの身長と、
格闘技をやっていそうな引き締まった体を持つ白河さんだった。

「あぁ、自己紹介が遅れてしまったね。私は白河忠志だ。ここの経営者とは小学生の時から40年来の親友で、
 毎年のようにここには遊びに来ているんだ。」

続いてその後ろにいた、おそらく30歳ぐらいだろうか、美人な分類に入ると思う、理知的な印象を持つ女の人が言う。

「私は、高倉なみ。白河先輩は言い忘れていたけど、私たち、警察官仲間なの。
 ちなみに白河先輩は警部で、私が警部補。この・・・」

と、そこで高倉さんが、隣にいた鳥羽さんの腕をつかんでひっぱり・・・

「うわっと! おい、なにすんだっ!」
「このナンパそうな男は、私の同期の鳥羽義政くん。万年巡査長止まりの」
「ま・・・万年は余計だっ!」
「そして・・・」

鳥羽さんの隣にいる、そういえば、今まで一言もしゃべっていない、寡黙そうな男に視線が集まる。
身なりはしっかりしているのだが、目がかなり遠くを見ているような感じを持っている。

「・・・亀山弦一です。」
「亀山くんは、私たちの中では一番後輩に当たるんだけど・・・結構人見知りが激しくて。」

高倉さんが、そう補足を入れる。補足を入れなければ、何者なのかさえわからないところだ。

向こう4人の紹介が終わり、次は僕たちが、彼らに自己紹介をした。
個人の自己紹介と、どうしてここに来たのか・・・などを話していくうちに、
大海なぎさはやはり、すっかり彼らと打ち解けてしまった・・・というか懐いてしまったようで。

思えば、1時間近く話をしていた。僕は話を聞いているだけだったが。

「・・・なるほど〜。サークル活動かぁ、懐かしいなぁ。青春!って感じ。」
「鳥羽さんは、どんなサークル活動してたんですかぁ?」
「そりゃ俺は300年に1度の逸材と呼ばれるほどのサーフィンの腕前を持って」
「嘘つかない。鳥羽君ずっと4年間パソコン同好会だったじゃない。」
「て、てめぇ・・・そりゃ、あ・・・あれだ。300年に1度のネットサーフィンの・・・」
「はいはい、わかったわかった」

鳥羽さんと高倉さんのコントのような話を、笑って聞いている大海なぎさと蒼谷ゆいを横目に、
僕は、夕波みつきと一緒に白河さんの話を聞いていた。亀山さんは、1人で麻雀牌でパズルゲームをしている。

「なるほど。夏なのに雪が積もっているこの山の写真を撮りに来たのか。」
「はい。他の周りの山はまったく積もっていないのに、どうしてこの山だけ、スキーが出来るほど雪があるのか。
 ちょっとそれを不思議に思ったので。その大自然の不思議さも写真に収めてみたい・・・と。」
「活動熱心だね。よっぽど写真が好きなんだなぁ。よかったら、今度写真を見せてほしいな。」
「えぇ、良いですよ。今も少しだけ写真ありますけど、見ますか?」

白河さんは、おぉ見せてくれ、と言ってうなづいた。
夕波みつきは背中に先ほど背負っていたリュックから、茶封筒を取り出して、中身を出して渡す。
「おぉ・・・これは・・・ふむ・・・」など、独り言を言いながら、写真を見ていく白河さん。
やがて、写真をすべて見終わると、丁寧にまとめて夕波みつきに返した。

「すばらしいものを見せてもらったよ。本当にありがとう。これなら、きっとこの山でもいい写真が撮れると私は思う。
 時を改めて、この山で撮った写真も見せてもらいたいところだ。」
「ありがとうございます。」

白河さんは、ロビーの窓の外を眺め、言う。

「この山は、確かに周りの山とは少し違ったところがある。私も最初は驚いたよ。こんな山があるなんてな。
 ちょっと不思議ですばらしい山でロッジを経営しはじめた、と枕崎が言ったときは何を言ってるんだと思ったが・・・。
 こうやって毎年毎年来てると、確かに良い山だと思えてくる。だが・・・」

そこで、少し白河さんは難しい顔をした。
こちらを再び向いて、こんなことを訪ねてきた。

「君たちは、この山に伝わる雪女の伝説は聞いているか?」
「はい。この山に夏でも降り積もる雪は、雪女の仕業・・・という話なら。」
「そう、そうなんですよ。」

その言葉を言ったのは、白河さん・・・ではなく、いつの間にか僕たちの後ろにいた、
このロッジの経営者、枕崎紀之さんだった。

「その雪女が・・・最近問題なんです。」

「問題、ですか?」と夕波みつきは首をかしげる。
いったい何が問題なのだろうか。

「伝説の雪女は・・・どうも実在するようなのですよ。」
「実在・・・って、伝説の話じゃないんですか?」
「ここ数年、周囲の山を登る登山家たちは、この清宮山の中腹から頂上にかけて、
 時折白い服を着た人の姿を見かける・・・と口ぐちに言うんです。
 まぁ、最初は熊か何かが雪でそんな風に見えたんじゃないか・・・と思っていたんですが。」

この山に熊がいることに関しては大丈夫なのだろうか、と少し疑問に思った。
この時期はあまりスキーヤーや観光客が少ないからと言って、安心してもいられないのではないだろうか。

「娘の早子も、ついに先月雪女を見たようなのです。まぁ早子は、目の錯覚かもしれないとか言ってましたが。」

だからだろうか。車に乗ってここに向かって来る途中、枕崎早子さんが雪女の話をしていたのは。
本人は、目の錯覚だ、と言っていた。いるかもしれない、とも言っていた。
・・・まぁ目の錯覚ならそれはそれで良いのかもしれないが、きっと雪女は実在するだろう。
今度、右京こまちにでも聞いてみればわかるはずだ。

「それに、目撃情報が増え始めてから、この山に振る雪の量が例年より増え始めてまして。
 冬はやはり本場の時期ですから、時には豪雪になることもあるぐらいなんです。そうなってしまえば閉鎖ですから。
 少々困ってしまっているのですよ・・・。」
「解決しようにも、相手は大自然だからお手上げ状態・・・ってことなんですね。」
「えぇ・・・まったくです。」

枕崎紀之さんは、そう言って苦笑いを浮かべる。
と、その時、

「お父さーん。ちょっと手伝ってー!」

フロントの奥の方から枕崎早子さんが出てきて、そういった。
失礼します、と一礼して、枕崎紀之さんは枕崎早子さんの方へ向かっていった。

残された僕たちは、再び話をはじめ・・・
結局それから外に出て写真を撮ったのは、予定していた集合時間の1時間半後になってしまった。

写真を撮り、はじめてのスキーをそれなりに楽しみ、食事に舌鼓を打ち・・・
白河さんたちと同じ日まで滞在するということで、いろんな会話を交わし・・・
あっという間に日にちは過ぎ去って、いよいよ明日帰るという日の夜。



事件は、起きたのだ。



続く