遭難事件とグラサン少女(上)




〜5〜



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その日の夜、僕の携帯電話に1通のメールが来た。
差出人は、大海なぎさ。
今日、メンバー全員で携帯電話の番号とメールアドレスを交換していたのだが、さっそく来るとは・・・。
大海なぎさは、きっとこの前のことについて聞こうとしているのだろう・・・。

と思いながらメールの本文を開くと、そこには、こう書かれていた。


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差出人:大海なぎさ
件名:無題

こんばんは、夜遅くにごめんなさい。
明日、この前言った通り、写真を持っていくけど、そっちも持ってきてくれるとありがたいな。
見た目、結構写真の腕前ありそうだし、楽しみにしてるよ。

なぎさ


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「・・・さっそくお誘いか。」

よほど、僕が撮った写真に興味があるのだろうか。
あの時は、大海なぎさが一瞬浮かべた獣のような笑みに、思わず恐怖を感じたが、
どうやら写真のことに関しては、夕波みつき以上に貪欲なのかもしれない。
何がそこまでさせるのかはわからないが、こちらも彼女たちに言ってないことはたくさんあるからお互い様なのは確かだ。
利用し、利用されという関係が、サークル内でだいぶ渦巻いている。
それらがぶつかり合う思惑なのか、それとも共存しうる思惑なのか。それは、言葉1つ。行動1つで変わる。

「さてさて・・・まずは、大海なぎさから・・・行きましょうか」

僕は、大海なぎさに了承のメールを返信し、床についた。


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今日と明日は、みつきがサークル活動をお休みにしたい、ということで集まることなく、放課後を迎えた。
しかし、私は水原くんに見せる写真を持ってきていたため、
あらかじめ部室で待っていることをメールで伝えておき、1人で広い部室で待っていた。
こうしてみると、昨日は4人いてそれなりににぎやかだった部室も、1人でいると広さも相まって寂しく感じる。

バッグから、大きな封筒を取り出し、テーブルの上に置く。
中には、水原くんが興味を持ちそうな写真が入っている。
なにやら、心霊写真とかそういうものに興味があるようで、この封筒に入っているのは、彼が好みそうな類のものばかりになっている。
別に幽霊の写真に、私は興味がないのだけれど、これでも一度撮った写真はなかなか捨てられない主義なのだ。

私は、水原くんと2人で話した時のことを思い出す。
その時、水原くんが、いったい何を考えていたのか、私は少し気になっている。発言の中に気になることもあった。
水原くんは、私が心霊写真のようなものを撮ったことがあると言った時、
「大海さんと夕波さんが撮った写真の中で、ですか?」と答えていた。
あの会話の中で、なぜみつきの名前が出てきたのだろうか。その時は、特に私も気にしていなかったけど、思い出すと少し不自然。

そういえば、みつきの過去についても聞かれた。なんで、みつきに直接聞かないのだろう・・・?
直接聞けないようなことなのかな・・・?

それに、最初に水原くんに会った時に言っていた『烏丸家』という言葉。
その時はうまく思い出せなかったっが、『烏丸家』といえば、歴史の授業で出てきたような気がする。
そして水原くんは、みつきと『烏丸家』がどうとか言っていた。

今まで、水原くんが言っていたことをまとめると・・・

みつきと『烏丸家』は、何かつながりがあって、それを水原くんは探ろうとしてる。
そのつながりはたぶん、私が知らない、みつきの過去にあったもので。
みつきが撮った心霊写真に、そのヒントがあるんじゃないかな・・・?

「ん〜。 でもなんで水原くんは、みつきと『烏丸家』のことを探ろうとしてるんだろう?
 それも、こんなにまわりくどい方法で。わざわざサークルに入って、わざわざ私から聞き出そうとして・・・」

そこで、部室のドアがコンコンとノック音を立てる。
開いてますよ〜というと、ドアが開き、水原くんが入ってきた。

「・・・お待たせして申し訳ありません。授業が長引いてしまいまして。」

そう言って水原くんは微笑を浮かべる。
いつも思うのだけれど、水原くんの笑顔は、どこか危うい印象を受ける。
まぁ、人は見た目じゃない。みつきも背は低いけど、私を守ろうとしてくれるかっこいい騎士(ナイト)なのだから。

「うぅん、大丈夫だよ〜。 ほら、写真持ってきたよ。」

水原くんは、「ありがとうございます」と言って、私の向かいのイスに座り、テーブルの上の封筒に手をかけようとする。
それを見て、私は先ほど考えていたことを、試しに投げかけてみることにして、先に封筒に手を置いた。

「その前に・・・ちょっといいかな?」
「・・・なんでしょう?」

どう聞いてみるのが良いかな・・・ストレートに聞いてもちゃんと答えてくれるかどうかわからないし・・・

「・・・あぁ、やっぱりさすがに気づかれますか。私がなぜ夕波みつきさんにそれほど拘るのか。」

私が聞く前に、なんと水原くんの方から話を切り出した。
ドアの向こうで、私が独り言を言っていたのを聞いていたのだろうか・・・?

「あ、うん。まぁ・・・ね。ちょっとおかしいな〜って思ってたんだけど。」
「・・・そうですか。まぁ仕方ありませんね。あなたが思っている通りで、大体あっていると思いますよ。」
「それは、みつきと『烏丸家』のこと?」
「えぇ、そうです。あなたはおそらく、私の発言から、過去に夕波みつきさんと『烏丸家』が関係があったのではないか。
 そう思っているのでしょう? それは正解です。」

やっぱり、と思う。
最初に水原くんと会ったとき、みつきが『烏丸家』というキーワードを聞いた瞬間の反応を見ていてもわかったのだけれど、
そこには確かに何らかのつながりがあったみたいだ。

「そして、ここも予想しているとは思いますが・・・私があなたや夕波みつきさんの持つ心霊写真に興味を持っていることも、
 それと関係している・・・と。それも正解です。」
「でもいったいなんで? なんであなたはみつきと『烏丸家』のことを探ろうとしているの?
 あなたはいったい・・・」

と、そこで、水原くんはポケットから1枚の写真を取り出した。
そこには、みつきが写っていた。どこかの墓場だろうか、なんでこんな場所にいるみつきの写真が・・・?
どうして水原くんは、こんな写真を持っているの・・・?

「・・・これは、ちょうど2年前の写真です。夕波みつきさんが高校3年生。僕が高校2年生のときです。」
「2年前・・・」

そういえば、みつきは昔撮ったという写真こそ見せてくれるが、
みつき自身が写った写真は見せてもらったことがなかった気がする。

と、そこで、写真に写るみつきの右上に、何やら人影のようなものが見えた。

「これって、まさか心霊写真?」
「・・・えぇそうです。しかも、ただの心霊写真ではありません。ここを見てください。」

水原くんは、みつきから見て正面にある墓を指差した。
周りの墓より、明らかに一回り大きく、威厳の感じられる墓を。
そこに、うっすらと文字が見える。これは・・・

「『烏丸家』・・・って・・・」

そう、みつきは『烏丸家』の墓の前に立っていたのだ。何故・・・?

「そして、この本を見てもらえますか?」

今度は水原くんは、バッグから1冊の本を取り出し、あるページを開いて私に差し出してきた。
それは、中学校や高校などで使われているような、歴史科目の資料集。
ページ名は、明治維新と貴族の形成。
そこに掲載されている1枚の人物写真が、目に留まる。

「烏丸・・・祐一郎?」

『烏丸家』の若き当主。烏丸祐一郎公爵といえば、この範囲のテストでよく出る重要人物だ。
そのページの説明を読んで、やっと思い出した。『烏丸家』という、市民に愛された貴族のことを。

「・・・そして、この夕波みつきさんの右上に写る、人のようなもの・・・。
 ここに顔らしきものが見えますが、似ていると思いませんか?」

言われてみれば、確かに似ている。
資料集に写る烏丸祐一郎公爵は、背が高いけど、この写真の霊のようなものも、同じぐらいの位置に顔がある。
そして、よくよく目をこらしてみると、この霊のようなものの腕が見え、その先が、みつきの肩に乗っている。

「・・・まるで、守るかのように夕波みつきさんの後ろに立っている、烏丸祐一郎公爵の霊らしきもの。
 先に言っておきますが、これはトリック写真でもなんでもありません。」

それは、この写真を見ていてわかる。これは明らかに本物。

「でも、でもなんで水原くんはこんな写真を持っているの?」
「・・・それはまぁ、いろいろ理由があって話が長くなりますが・・・それでも聞きたいですか?」
「うん・・・聞きたい。」

私のその言葉を聞くと、水原くんは微笑を浮かべ、その話をはじめた。


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僕が写真に目覚めたのは、もう4・5年ほど前になるだろうか。
早くに父親をなくし、女手ひとつで育てられた僕は、その頃高校受験を迎えていた。
家計が厳しいことは、よく知っていた。毎日遅くまで働く母親は、僕になるべく不自由な思いをさせないようにしていた。
欲しいものは大抵買ってくれた。

しかし、僕も年齢があがるにつれて、なんでもあれが欲しい、これが欲しいなんて言ってられないほど、
家の状況がひどいことに気づき始める。それでも母親は、そんな状況でも愚痴ひとつ言わなかった。
それどころか、心配しないで、大丈夫、とばかり言う。本当はその言葉は母親自身に向けられていたと思うのだけれど。

そんなある日、僕は自分の中学校で開かれる写真展の設備係になった。
有名な写真家が何人か出展するという写真展だったが、最初僕はなんの興味も示さなかった。
指示されるがまま、パネルや写真の展示や設営を手伝った。
しかし、僕はそこである1枚の写真を見つけた。

題名は「私と娘」。
撮影者は「夕波まこと」と書かれていた。

その出展者らしき、中年の男の人と、その男の娘さんらしき女の子が、家の前で2人並んで写っている。
そんな、一見どこにでもありそうな写真。でもそんな写真に、目を奪われてしまった。
他の出展者の写真と比べると、僕はあまり詳しくないけれども、芸術性というものは感じられなかった。

ただ・・・1つ思ったことは「うらやましい」という気持ちが湧き上がったことだけ。

こうして親と写真を撮ったことなんて、僕にはなかった。
いつも母親は、仕事で忙しく、運動会や授業参観などにももちろん来たことはなかった。
だからそもそも、家に写真なんてなかった。

うらやましい。こんな親子になりたい。こんな風に写真を撮りたい。

そう思ってから、僕は近くにいた、この写真展の企画者のおじさんを捕まえて、
この「夕波まこと」という人について話を聞きたい、と言った。
すると、おじさんは言った。

「あぁ、まこと君ねぇ。彼は人一倍、写真にこだわるからねぇ。
 『普通の写真じゃ、ダメなんです!』とか、結構仕事に関してはアツいから。
 だからほら、君が今見ていたまこと君の写真も、他のとは違うだろう?
 他は、芸術的というかなんというか、人物写真にしても独創的な感性を持ってやっているけど、
 彼の写真だけは、それを全部反故にしているんだよ。」

写真のことはあまりわからないけど、なんとなくおじさんが言っていることはわかった。
他の人とは、何か違うものを持っている・・・。つまりはそういうことだ。

ぜひ会わせてほしい、というと、おじさんは必ずという保証こそなかったけれど、
「まぁ聞いてみるよ。」と言ってくれた。
連絡先だけおじさんに教えておいて、僕は返事が来るのを待っていた。



そして、「夕波まこと」が僕に会ってくれる、という連絡が来たのはすぐ後だった。



僕は言われた通りの日時に、指示された場所へ行った。
そこは、とあるカフェの一角。夕日が窓から差し込んでくる時間だった。
どこかで見たことのある姿の、男の人が、1人でテーブル席に座っていた。

「・・・すみません。夕波まことさん、ですか?」
「あぁ。君が、俺に会いたいって言ってた、水原月夜君かい?」
「はい」

僕はうながされるまま、向かいの席に座る。

「いやぁ、まさかびっくりしたよ。どうしても俺に会いたい男の子がいる、って聞いていたから。
 こんなことははじめてだよ。」
「わざわざ時間を作っていただいて、ありがとうございます」
「あぁ、良いんだよ。俺の写真に興味を持ってくれたんだ。逆にこっちがお礼を言わなきゃいけないね。
 どうも、ありがとう。」

といって、夕波まことは急に頭を下げてくる。
突然のことに僕は驚いた。

「あ、え、ちょっと・・・頭をあげてもらえませんか・・・?」

その僕の言葉に、今度は急に頭をあげ、すまなそうに言ってくる。

「・・・あぁ、急に驚かせてしまってすまないね。どうも仕事柄、頭を下げることが多くて。」

どうやら、話によれば、夕波まことは、フリーのカメラマンをやっているらしい。
趣味ではなく、仕事として写真の道を歩んでいるとのことだ。
しかし、その道は険しく、いろんな雑誌の編集部などに撮った写真を持ち込んでも、なかなか受け入れてもらえないことが多く、
なんとか頭を下げてでも、掲載してもらおうと努力をしているという。

「俺には、君と同じくらいの娘が1人いるんだけど、母親を生まれたときに亡くしていてね。
 それ以来、俺は娘を男手ひとつで育ててきたんだ。」

その言葉を聞いて、あぁ僕の家と形はほとんど同じなんだ、と思う。

「娘に苦労させちゃいけない、心配させちゃいけない、なんてずっと思っていてね。
 ずっと仕事ばかりしてきた。といっても、フラフラ写真を撮っているだけなんだけどね・・・。ダメな父親だろう?」
「そんなことないです!」

思わず、強い口調で言ってしまった。
びっくりしたのか、夕波まことは口を少し開けたまま固まってしまった。

「・・・すみません。でも、僕はそうは思いません。僕の家も・・・僕も、片親だけで育てられてきましたけど、
 でも、夕波さんのように、親子で写真を撮るなんてことは、僕の家ではありませんでした。
 それどころか、親と話す事すら最近はあまりなくて・・・」
「・・・そうなのか。」

それから、無言が続いた。
僕はしゃべるタイミングを失ってしまい、思わずソワソワ周りを気にし始めた。
僕が聞きたいのは、言いたいのは、そういうことではないのに・・・。

「・・・そうだ、水原君。君はカメラを持っているのかい?」

突然、夕波まことはそんなことを聞いてきた。僕は否定する。

「そうか。それじゃあ、これ、使ってくれよ。」

そう言うと同時に、夕波まことは、座っているソファ席の隣に置いてある紙袋を取って、僕に渡してきた。

「あまり高価なものじゃないけど、その方が君も気兼ねしなくていいと思ったし。
 これは、俺から君へのプレゼントだ。使ってくれ。」
「あ・・・ありがとうございます。開けても良いでしょうか?」

夕波まことは、黙ってうなづく。
紙袋の中身を取り出すと、そこには、カメラの写真が描かれている大きな箱が1つ。・・・カメラだ。

「いいんですか? 本当にこれ・・・」
「あぁ・・・。デジタルカメラでも一眼レフカメラでもないのは申し訳ないけど、でもカメラは道具じゃない。
 タイミング、気持ち・・・そういうもので、どんな簡素なカメラでも最高の1枚が撮れる。
 ・・・まぁ、これは亡くなった妻の受け売りなんだけどね。」

僕は、何度もお礼を言った。
「これで夕波さんと同じように親子で写真が撮れます」と、僕は喜んで受け取った。

それからも1時間ほど、夕波まことと2人で話をした。
そして夕波まことは、そろそろ家で娘が待っているから、と言って別れることになった。
僕は何度もお礼を言ったが、夕波まことはやはり、こっちが感謝するほうだよと言った。

最後に「これからは、ともに写真を撮る仲間だ。お互い、がんばって良い写真を撮ろう!」と言ってくれたことを、
僕は一生忘れないだろう。



これが、僕が夕波まことが出会った、最初で最後の機会だった。



夕波まことは、それから1か月もしないうちに、交通事故で死亡したことが、
僕を夕波まことに紹介してくれた、あの写真展のおじさんから伝えられた。
また会えるはずだと思っていた僕にとって、それは衝撃以外の何物でもなかった。
もっと聞きたいこと、話したいことが山ほどあったのにもかかわらず・・・。

さらに、不幸は続いた。

母親が、過労で倒れたのだ。
年もあってか、かなり無理をしていたようで、ついにその無理が精神と体を襲ったのだと、医者は言った。
幸い、母親は一命を取り留めたのだが、体はボロボロ、精神は混乱状態になり、入院しなければいけないことになった。

家の唯一の稼ぎ手がいなくなり、生活費と高校受験費、母親の入院費に、僕は困り果ててしまった。
このままでは非常にマズい、と思っていたある日。
家で家事をしながらテレビを見ていたときのこと、ある番組に僕は目が釘付けになった。

「心霊写真100連発! 今夜あなたは恐怖に怯える!」

などというタイトル。
次々と出てくる心霊写真に、僕はこれだ!と思った。
採用された方には金一封、という字幕に、僕は試してみようと思ったのだ。

もちろん、霊がいるなんて非現実的なことを僕は信じていない。
どうせ、番組で扱われているのはトリック写真か何かだろう。
ありもしない幽霊を、”ホンモノっぽく写す”ことさえできれば、僕にでもやれるかもしれない。
そう思いたつと、いろいろとアイディアが浮かんできた。

それから僕は、夕波まことからもらったカメラを使って、トリック写真を撮り始めたのだ。
いろいろなものを作っていくうちに、どんどん僕はそれにハマっていった。
それこそ、何かに憑りつかれるかのように。

気が付くと、僕の撮った写真はいろんなテレビ番組などで採用されるようになっていた。
どんどん賞金が入ってきて、高校受験費、母親の入院費も少しずつ払えるほどになってきた。
しかし、もう僕の目は、トリック写真を撮ることにしか向いていなかった。
次はどんな写真を撮ろう、どういうトリックを使おう、ということばかり気にしていた。
周りのクラスメイトたちは、僕を以前にもまして気味悪がるようになったが、僕は気に留めなかった。

やがて、高校に進学したころには、夕波まことからもらったカメラだけでは物足りなくなり、
貯めたお金でデジタルカメラとパソコンを購入し、写真の加工技術を独学で習得し、
ますますトリック写真に没頭していった。
テレビ局だけでなく、個人にもネット上で販売するようになり、そのウケがまたかなり良かった。



そしてある日、僕はトリック写真を撮るための背景を手に入れるため、ある墓場に来ていた。
いつものように、デジタルカメラで写真を次々と撮っていく。
と、ふと撮った写真を整理しようと、写真一覧を見ると、その写真の何枚かに、1人の女の子が写ってしまっていた。
夢中で撮っていて気付かなかったが、その女の子は、ほかの墓より一回り大きい墓の前で、何かをつぶやいているようだった。
時々いるのだ、こうやって墓場に通っていると、墓に話しかけている人の姿が。
しかし、こんな少女が一人で・・・

だが、その女の子が写ってしまった写真を見ていて、どこかで見たことあるような気がした。
誰だったか・・・。

女の子が先ほどまでいた場所に戻ってみると、もうそこに女の子は居なかったが、
何の墓を見ていたのか確認すると、そこには『烏丸家』と書かれていた。

何かがひっかかる。『烏丸家』。どこにでもある苗字・・・ではない。
でも、どこかで耳にしたことがある。
それに、あの女の子。

その墓場からの帰り道に、ふとその女の子のことを思い出した。
そうだ、「夕波まこと」の娘に、そっくりだったのだ。瓜二つと言えるほどに。
名前はなんだったか・・・確か夕波まことから聞いていたはずなのだが、思い出せない。
確か僕とそんなに年齢は変わらないはずだった。

家に帰り、パソコンを立ち上げ、今日撮った写真を転送する。
あの、夕波まことの娘らしき女の子が写っている写真も含めて・・・。

「・・・ん?」

なにか、おかしいことに気づく。
その女の子が写っている写真の、女の子の右上に、何かがぼやけて写っているような・・・。

「これは・・・」

何枚か、同じような写真を見ていくと、その中の1枚に、決定的な写真があった。
明らかに、人の顔が、女の子の右上に写っている。
そして女の子の肩に、手を乗せて、まるで後ろから女の子を守っているような・・・若い男の姿。
はっきりと写っている女の子に対し、隣にいるその若い男はいまいち薄く写っていた。

しかも、この若い男の姿も・・・どこかで見たことが・・・。

僕は、それを思い出し、急いで学校用のカバンから歴史の教科書を取り出し、
最近授業でやっているページを開いた。
「烏丸祐一郎公爵」と書かれたプロフィールと、その写真。同じ顔なのだ。

そして、女の子が見ていた墓にあった『烏丸家』の文字・・・。

「これは・・・本物なのか・・・?」

何かの自然現象が、この写真を作り出した・・・とは到底思えない。
何枚かの写真には、同じ位置にぼやけた何者かの姿があり、そしてこの1枚には明らかに写っている。
蜃気楼か・・・いや、それが起こるには少々温度は低かった。
今、僕が持っているトリック写真を撮るための知識を総動員しても、この写真を撮る方法が見つからない。
念のため、レンズの汚れかと思って確認してみたが、それならばほかの写真にもそれが写るはずだ。

夕波まことの娘らしき女の子・・・
『烏丸家』の墓と、それに写る烏丸祐一郎の霊らしき姿・・・

本当に心霊写真が撮れてしまうなんて思ってもみなかった。
しかし、いったいどういうことなのだろうか。
夕波まことの娘と、『烏丸家』に、何か関係でもあるのだろうか。
そして、本当に幽霊はいるのだろうか。



僕は、それを探るため、夕波まことの娘についての情報を集めだした。



まずわかったのは、やはり、あの写真の女の子は夕波まことの娘・・・夕波みつきであること。
そして、夕波みつきが自分の1つ年上で、なんと同じ高校に通っているということ。これには非常に驚いた。
それから僕は、夕波みつきに会って、話がしたいと思っていた。

でも、訳があってそれができないまま、夕波みつきは高校を卒業してしまった。
接触する機会を失った僕だったけど、夕波みつきの進学先の大学を知り、僕もそこに入ることを決意した。


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「・・・そういうことだったのかぁ。」

と、目の前の大海なぎさは頷きながらつぶやく。

「これが、すべてです。わかって・・・いただけたでしょうか?」
「う〜ん、大体、かなぁ? でも、それじゃあせっかくみつきに会えたのに、なんで本人に言わないの?
 みつきに会って、この『烏丸家』の墓の写真と幽霊について、聞くんじゃないの?」

そうなのだ。本当は、そのつもりだった。
あの夕波まことの娘が、『烏丸家』と何の関係があるのか・・・
幽霊について、何か知っているんじゃないか・・・
すべてを、聞き出そうとして、そして・・・

僕は、金儲けをしようとしていたはずなのに

でも、それができなくなってしまった。
あの女と遭ってしまってから、僕は直接、夕波みつきに手を出せなくなってしまっていた。
もし僕が、夕波みつきにこれ以上、烏丸祐一郎公爵の霊のことを聞きだそうとすれば、あの女は、容赦なく僕を殺すとまで言ってきた。
・・・あの、右京こまちという名の、悪魔に。

「・・・大丈夫? 顔色が悪いみたいだけど、もしかして、マズいこと聞いちゃった・・・かな?」
「あ・・・あぁ、大丈夫です。」

実際のところ、大丈夫ではない。
右京こまちが僕にかけた呪いが、動き出したのだ。
これ以上しゃべれば、僕を消すつもりなのだろうか。
そこまで右京こまちが、夕波みつきと烏丸祐一郎にこだわる理由はなんだ・・・?

その思考をはじめると頭痛が走り出した。
しかし僕は思考をやめようとはしない。

右京こまちと出合ったあの日・・・やっと僕が夕波みつきと『烏丸家』の接点をつきとめかけたあの日、
あの女は・・・

呪いが、無理やり頭痛を引き起こし、僕の思考を妨害する。

「・・・すみませんが・・・ちょっと体調が悪くなりましたので・・・この話は次の機会に・・・」
「だ、大丈夫? 足元がふらついてるよ。ほら、とりあえず医務室に行こう?」

大海なぎさは、僕の腕を自分の肩にまわし、そのまま医務室へ運ぼうとしたが、僕は力を失い、その場に倒れ・・・意識をなくした。



続く