終わりの世界とグラサン少女




〜9〜



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烏丸公爵と別れてから、数時間、この都市を駆け抜け、そしてようやくこの都市で一番巨大な建物である、
【都市中央機構棟】に到着したのは、もう太陽が随分と西に傾き始めた時間だった。
戦闘らしい戦闘もなく、意外にも安全にここまでたどり着いたことに、僕は少し不審感を募らせつつあった。

「ここが・・・【都市中央機構棟】・・・」
「やっと着いたな。ここに、なぎさが・・・」

夕波みつきと蒼谷ゆいは、【都市中央機構棟】を見上げながら、それぞれ呟いた。

「結局・・・烏丸公爵もこまちさんも、亀山さんも合流できませんでしたね。」
「ここまで来たら、俺たちだけでも行くっきゃないだろ!」

相変わらずの体力バカな蒼谷ゆいを見て、思わず笑みがこぼれる。
その自信はどこから来るのかと、聞きたくなってしまうぐらいに。

「・・・おい、誰か建物から出てくるぞ。」

蒼谷が突然真面目な口調になって、そう言った。
一番目立つ入口の自動ドアから、初老のスーツの男が1人、出てきた。
まるで裕福な家庭に仕える執事のような姿の。

「お待ちしておりました。夕波みつき様、水原月夜様、蒼谷ゆい様ですね?」

落ち着いたしゃべり方で話すこの男からは、呪いや悪霊と言ったような類のものとは縁遠さを感じる。
なのに、一切隙の無い動き。歩き方だけ取って見ても、簡単には近寄れない何かを周囲に放っているように見える。

「最上階で、進藤竜一様がお待ちです。どうぞこちらへ。」
「待て! なぎさは、なぎさはどこだ!」

話を遮るように、蒼谷ゆいは叫ぶ。

「大海なぎさ様の居場所に関しても、進藤竜一様がご存知です。さぁ、こちらへ・・・。」

微笑みを見せながらも、どこかに鋭さを感じる視線。
蒼谷ゆいは、その視線に射竦められてしまったようで、それきり叫ぶことをやめて大人しくなってしまった。

「・・・行きましょう。」



僕たちは、ゆっくりと【都市中央機構棟】へと、足を踏み入れた。
1階は広大なロビーになっていた。高価に見えるソファやテーブルなどが並んでいる。
どこか一流企業の本社にでも入ったような感じがする。
人はまったく見当たらない。普通なら、受付嬢が居るはずの案内所にも、ぽつりと旧式の黒電話が1台置いてあるだけ。
初老のスーツ男は、どんどんと先の方へ進んでいく。一度も僕たちの方を振り返りはしない。

「な、なぁ、さっきから視線感じるんだけど、俺の気のせいか?」

後ろから小声で蒼谷ゆいが尋ねてきた。
確かに、このロビーに入ってからというもの、視線を複数感じている。
しかしどうもその視線の種類が、殺気のあるものとは違う気がする。どちらかと言えば、興味本位の眼差しと言うべきか。

「監視カメラが至る所に仕掛けられていても、おかしくは無いと思いますよ。」
「そ・・・そうだよな。」

蒼谷ゆいには、そう言って落ち着かせておけば良いだろう。

「こちらのエレベーターで、途中階へ向かいます。」

初老のスーツ男が、1台のエレベーターの前で立ち止まり、そう言った。
これだけ巨大な建物にも関わらず、エレベーターが1台しか見当たらない。おそらく、侵入者対策だろう。
それに、この男は「途中階」と言った。乗り換えをしなければ、最上階へは行けない仕組みになっているとすれば、
かなり手の込んだ構造にしていると思って、まず間違いは無いはずだ。

エレベーターのチャイムが鳴り、扉が開く。
僕たちは恐る恐るそれに乗り込む。常に罠が仕掛けられている可能性を意識せざるを得ない。
扉が閉まり、エレベーターはゆっくりと上昇を始めた。

ここまで来ることは出来た。
でも、進藤竜一に会って、どうしようかというところまでは、実のところあまり考えていなかった。
進藤竜一は、夕波みつきを狙っている。それも、殺そうとしている。
それを考えると、僕たちはこれから殺されに行くようなものでは無いだろうか・・・?
話し合いで解決できるような相手だとは思えない。話し合いで済むなら、わざわざこんな組織や都市まで作らないだろう。
進藤竜一は何を望んでいる? 夕波みつきを殺して世界を救うと言っていた、その意味は何だ?
夕波みつきには、人類を滅ぼす可能性がある呪い【はじまりの魔法】が隠されている。しかし、それは殺せば消えるものなのか?
感染性、遺伝性の高い呪いであることは、僕が既に身を持って証明している。
下手に夕波みつきを殺して、【はじまりの魔法】が動き出してしまったら、進藤竜一も巻き添えを喰らうのでは?

進藤竜一が何者なのか、改めて深く考察してみる必要がありそうだ。

エレベーターが停止する。扉の右上の電子表示板には、27階と表示されている。
外からこの【都市中央機構棟】を見た時は、40階はありそうに見えた。仮に全部で50階だとすれば、ちょうど半分と言ったところか。
初老のスーツ男は、開いた扉を手で抑え、無言で先に進んでくださいと目で合図した。
促されるまま、僕たちはエレベーターを降りる。目の前には、絶景の見えるエレベーターホールが広がっている。

「うわっ、すげーな・・・。」

思わず感嘆の声を上げる蒼谷ゆいだが、すぐに緊張した表情に戻る。

「こちらです。」

相変わらず、落ち着いた口調で話す初老のスーツ男は、エレベーターから見て右に伸びる長い廊下を歩きだした。
僕と夕波みつきに続いて、名残惜しそうに絶景を見送る蒼谷ゆいの姿があった・・・。



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「ふむ、少しやり過ぎたか。」

次々と出てくる戦車たちを相手に、【影桜】を振い続けて1時間は経過しただろうか。
余計な時間を浪費してしまったことは、多少悔やまれる。
だが、近代兵器を相手にしたことはあまり無かったことを考えれば、
良い経験になったかもしれない、と前向きに思うことが重要だろう。

やや乱れてしまった髪を整え直す。お気に入りの、この紺色を基調とした和服の乱れも直す。
右手に持っていた【影桜】の刀身に【紫炎帯】を巻き付け、腰に下げる。

背後には、ガラクタとなった戦車たちの残骸が散らばっているが、そんなことは気にしない。
念のために戦車の中の人間は殺さないでおこうと、操縦席は狙わないように戦闘をしていたが、
そもそも戦車が遠隔の自動操縦だったらしく、まったくの無人であったために、その配慮は杞憂に終わっていたからだ。
機械のことに関しては、水原が詳しいのだろうが、この戦車たちを操縦していた者を発見したところで、
大局にさほど影響を与えはしないだろう。

水原たちは・・・大丈夫だろうか・・・。

「はっ、私は・・・いったい何を。」

気を抜くと、水原の事を考えてしまう。
大海なぎさに、水原の事が好きだと伝えてしまった時から、頭の中に霧がかかったようになってしまっている。
今まで喰らってきたどんな呪いよりも・・・性質が悪い。
戦車と戦っている時は、無心でいられた。しかし、少しでも気を緩めてしまうと再び霧がかかる。
これが・・・恋、なのだろうか。

「・・・これはまた、随分と派手にやりましたね。」

突然そんな言葉がどこからか聞こえてきた。どこだ? 先ほどまでは、人の気配などまったく感じなかったが・・・。

「後ろですよ。」

さっと振り返って、腰に下げたばかりの【影桜】を抜き放つ。
声の主の首筋に、【紫炎帯】に包まれた刀身を突き付ける。

「亀山弦一か。」
「無事で・・・何よりです。」

さっきとは違う服を身に着けている・・・鈍く光る黒いコートを羽織った亀山弦一が、そこには居た。
首筋に剣を突き付けられているにも関わらず、まったく動じる様子を見せない。
最初に会った時から感じていたが・・・どうもこいつの言動や反応は水原とよく似ている。ただ・・・水原の方がいくらか甘いだろうか。
それに引き替え、亀山弦一は、警察官ということもあるためか、独特のオーラを放っている気がする。
オーラの色を例えるなら、白、いや、透明に近いとも思える。私の背後に、気づかれないように忍び寄るには絶好の色だろう。

【影桜】を腰に下げる。亀山弦一は表情1つ変えない。
どこか暗さを持ちながらも、使命感を背負って生きている、そんな表情を、表面の無表情さで隠している。

「夕波みつきたちはどうした。一緒じゃないのか。」
「・・・それが、逸れてしまいました。」
「逸れただと?」

この都市の案内役であるにも関わらず淡々と、逸れた、と答えたことに私は少し腹を立てたが、
しかし今更怒っても仕方がないであろうことを悟り、それ以上の追及は控えることにした。

「まぁ良い。烏丸祐一郎が付いている限りは、戦闘になっても大丈夫だろう。いざとなれば、水原もいるからな。
 それより・・・その服はいったいどうした? さっきは着ていなかっただろう。」
「あぁ・・・これですか。みつきさんたちと逸れた後、裏路地を使って【都市中央機構棟】を目指していたところに、
 たまたま国家国防省の部隊の人間と遭遇してしまいまして・・・なんとか倒して手に入れました。」

そう言いながら、亀山弦一はコートを広げる。
するとコートの内側に、無数の武器が隠されているのが見えた。
ナイフ、煙玉、小銃、ロープが2種・・・と、わかるだけでもそれほどの物が用意されていた。

「恐ろしいですね・・・国家国防省の人間1人が、これだけ武器を隠し持っているとなると。」
「まったくだな。それに無人の戦車もあれだけ配備されていた。」

後ろを指差しながら、亀山弦一の表情を伺う。
果たしてこの男は、どこまで国家国防省の内部に詳しいのだろうか。それを探るために。

「戦車・・・それも無人となると、どこかで遠隔操作している可能性があるでしょう。
 もしかして、その遠隔操作の犯人を捜して捕まえようと?」
「・・・いや、時間の無駄だ。」
「そうですね。賢明なご判断だと思います。」

その後、私は亀山弦一に、ここに来るまでの経緯を尋ねた。
都市に居た大勢の人間や車が一斉に消えてしまったこと、悪霊に囲まれたこと、その最中で自分だけが幻覚を見せられたこと、
気が付くと水原たちと逸れてしまっていたこと・・・。

「なるほど、大体わかった。」
「・・・先を急ぎましょう。おそらくそろそろ、みつきさんたちは【都市中央機構棟】に到着している頃です。」
「わかった。だが、少し待ってくれ。呼びたいやつがいる。」
「・・・呼びたい・・・やつですか?」

私は、【影桜】を虚空に掲げ円状に振いながら、呪法を唱える。
異界とこの世界をつなげる呪いだ。

「黄泉よ、冥界よ、次元を拓き、解放せん。」

【影桜】が描いた円に、黒く濁った穴のようなものが現れる。
そこから綺麗な手が伸びてきたかと思うと、何者かが穴から飛び出してきた。
端正な顔立ち、紅色のコート、コートと同じ色をした長髪。
【美麗帝ユニカ】。【九神霊】の1人で、私の祖先の恩人でもある。

「右京こまち・・・か。」

落ち着いた表情で、私を見て呟く。

「ユニカ、そちらの戦況も気になるところだが、今は時間が惜しい。紅蓮の力・・・紅天聖のコートを返してくれないか。」
「ようやく、その気になったのか。随分と待ちくたびれた気がする。」

1つため息をついたユニカは、羽織っている紅色のコートを私に手渡してくる。
これは、私の先祖である紅天聖の使用していたコートだ。
丁寧に受け取り、羽織る。

「和服にコートというのは、少し不格好だと思うか?」

私は、隣で見守っていた亀山弦一にそう聞くが、左右に首を振られるだけの返答で終わった。

「このコートを受け取るにふさわしい強さを、私は手にいれた。」
「それは・・・どんな強さ?」

ユニカの質問に、私は一言「人間であることの強さ」と答えた。



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「うぐっ」
「ここで大人しくしていてください。食事は出すのでご安心を。」

ガタンッ ガチャ

部屋の唯一の出入り口である、鋼鉄の扉が閉められ、鍵をかけられた。
ここに来るまで、ほとんど眠らされていたため、ここがいったいどこなのか解らない。
【都市中央機構棟】なのだろうか・・・。それとも、別の牢獄なのだろうか。
まぁ・・・牢獄にしては、少し広いだろうか。それでも、部屋に置いてあるのは、机と、ベッドが2台だけだ。
部屋が暗いため、壁伝いに手探りで明かりを探す。すると間もなく、それらしきスイッチを発見し、スイッチを切り替える。
暖かい光が、低い天井から部屋に降り注がれるようになった。

「ん・・・?」

2台あるベッドのうち、明らかに1台だけ、不自然に膨らんでいる。
しかも、よく耳を澄ますと、寝息のようなものが聞こえてくる。
誰かがベッドで寝ているのだろうか・・・。もしかすると・・・。
恐る恐る、膨らんでいる方のベッドに、フラつく足で向かう。気配を消して。

寝息が止まる。目覚めたのか?

「・・・誰か、そこにいるの?」

かわいらしい女の声。みつきちゃんとはまた違う。
掛け布団がめくり上げられ、女の子がベッドから姿を現した。
黄色いワンピース、みつきちゃんとはまた違う、子どもの明るさを持っている顔、長く青みのかかった髪は後ろで括られている。
みつきちゃんから聞いていた特徴に、とてもよく似ている。あの子にそっくりだ。

「君は、まさか大海なぎさちゃん、なのか?」
「確かに私はそうだけど・・・。あなたは、誰? 国家国防省の人間じゃない、よね。」
「私は烏丸祐一郎。国家国防省じゃないよ。君を助けに来たんだ。」
「・・・烏丸・・・祐一郎・・・。」

何かを思い出すように、宙をぼーっと見つめている。
そして突然表情を変え、驚いた声を上げた。

「えっ!? ってことは、あなたがみつきの・・・。」
「まさかこんなところで会えるなんてね。」
「・・・そう、ですね。」
「ここは【都市中央機構棟】なのかい?」

返事はイエスだった。やはりここは【都市中央機構棟】だったのだ。

「正確に言えば、【都市中央機構棟】の30階にある牢屋です。」
「君は・・・国家国防省の側についてから、ずっとここの部屋にあてがわれているのかい?」
「いえ、反逆したので捕まりました・・・。」

反逆した。確かにそう言った。
水原君やこまちさんの話では、なぎさちゃんは国家国防省の中でも相当の力を持っている可能性がある、と言っていた。
あのこまちさんと剣技で互角の戦いをしたというのだから。おそらく、何らかの霊力を与えられているに違いないだろう。
そんな彼女が反逆して捕まった・・・。

「・・・君は、そもそもいったいどうして国家国防省の側に着いたんだい?」

なぎさちゃんの向かいのベッドに座りながら、私はそう尋ねた。
最初は、その質問に戸惑いを示し、あぁでもない、こうでもないと思案顔で辺りを見回していたが・・・。
数分してようやく口を開けた。

「・・・あの進藤竜一さんを助けようと思ったのがはじまりです。」
「助けようと思った・・・?」

みつきちゃんを殺して、世界を救う、などというふざけるにも程がある目的を掲げた男を、助けようと思った?

「私は、進藤竜一さんが背負っている悲しい運命を、見届けなければならないという使命感に駆られていたのかもしれません。」
「悲しい運命・・・。」
「・・・すべてをお話しすることはできません。私には口封じの呪いをかけられています。
 もし、少しでも真相を話そうとすれば、呪いによって殺されてしまいます。」
「その呪いをかけたのは、やはり【魔神ミニョルフ】かい?」

黙って頷くなぎさちゃんの表情は、明るくは無い。

「ミニョルフさんは、進藤竜一さんを利用しようとはしていません。たぶん皆さんが誤解しているかもしれませんが・・・。
 利用しているのは進藤竜一さんの方なんです・・・。」
「それじゃあ、国家国防省と【九神霊】がつながっているのは、進藤竜一の・・・」
「そうです。思惑です。」

まさか、人間である進藤竜一が、異界の神である【九神霊】をも巻き込んで、こんな状況にしたというのだろうか。
いや・・・ここまで来ると、進藤竜一が人間であることすら怪しくなってくる。
一度も進藤竜一に会ったことは無いが・・・。そんな予想が頭をよぎる。いったい、どんな人物だろうか。

「いったい【九神霊】まで巻き込んで、進藤竜一はどうするつもりなんだ?」
「世界を、救うつもりです。【はじまりの魔法】を・・・」

そこまで言ったところで、突然なぎさちゃんは胸を押さえて、少し苦しみだした。

「だ、大丈夫かい!?」
「はぁっ・・・はぁっ・・・ごめん、なさい。これ以上は言えないんです。」

少しの間、静寂が部屋を包む。なぎさちゃんが落ち着くのを静かに待つ。

「もう、大丈夫です。すみません。せめて呪いさえなければ、すべてをお話できるのですが・・・。」
「いや・・・良いんだ。こちらこそ申し訳ない。無理に質問攻めにしてしまって。」
「いえ・・・。」

進藤竜一は、世界を救おうとしている。みつきちゃんの命と引き換えに、何かをして、世界を救おうとしている。
その何か、のキーワードはおそらく【はじまりの魔法】・・・なのだろう。
【はじまりの魔法】の本体は、みつきちゃんの身体の中に秘められている。
みつきちゃんを殺して、【はじまりの魔法】をどうするのか・・・可能性としては、【はじまりの魔法】を奪う、だろうか。
奪ってどうする・・・? 【はじまりの魔法】はただの呪いじゃあない。下手をすれば人間どころか霊体すべてを滅ぼす呪いだ。
まさか、世界征服でもするつもりなのか?

ただ、そう考えていくと、さっきのなぎさちゃんの言葉で、不自然な点が出てくる。
進藤竜一が背負っている悲しい運命・・・。
それは何だろうか。なぎさちゃんの話し方からすれば、おそらく自分の意思でなぎさちゃんは進藤竜一に付き従っていたのだろう。
なぎさちゃんを、そこまで思わせた、悲しい運命・・・。

もしかすると、進藤竜一は、自らの身体を犠牲にして、【はじまりの魔法】という呪いからみつきちゃんを解放するつもりで・・・。



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2回目のエレベーターを最上階で降りた私たちは、執事のような初老の男の人に連れられて、廊下の一番端にあるドアの前に辿り着いた。
ドアの上には、この部屋が何という部屋なのかを表している。名前は「長官室」。

執事のような男の人は、ゆっくりとそのドアを指差し、中に入るように視線で合図される。

「・・・行きましょう。」
「お、おぅ!」

私は、水原と蒼谷の後ろに、守られるように立つ。
水原がドアを2度、ノックする。しかし・・・返事は無い。
本当に入っていいのかどうか、少し躊躇っている様子の水原だったが、意を決したかのようにドアノブに手をかけ、ゆっくりと回した。
ドアの開いた隙間から、眩しい光がこぼれてくる。もう夕方だからなのか、これが夕陽の光であるとすぐにわかる。

私たち3人は、長官室に足を踏み入れた。
後ろのドアは私たちが入るや否や、バタンと閉められた上に、鍵までかけられてしまった。
・・・閉じ込められた。

「ようこそ、水原月夜君、蒼谷ゆい君、そして・・・」

そんな声が私たちにかけられる。
ドアから正面に大きな窓ガラスがあり、そこから大量の夕陽の光が入ってきているために、その方向にいると思われる声の主を確認できない。
私は、ポケットから、お父さんとお母さんの形見であるサングラスを取り出して、かけた。

そして、声の主の姿を見つける。
今まで見たことも無いような高級そうな机の前に、整然と立っている男。背丈は、水原と良い勝負だろうか・・・?
フレームの無いメガネをかけていて、漆黒のスーツを着ている。街中で見かければ、普通のサラリーマンにしか見えない。
年齢も、私とそんなに変わらないかもしれない。

「そして、【はじまりの魔法】、夕波みつきさん。」



その人物こそ、進藤竜一であることに、私はすぐに気が付かないわけにはいかなかった。



続く



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終わりの世界とグラサン少女の中編、いかがでしたでしょうか。
ついに、みつきちゃんと進藤竜一が出会いました。ここまで来るのはとても長かった気がします。
思えば・・・【はじまりの魔法】から通算して、20話近くになるのでしょうか。
ここまで漕ぎ着けるのに、これほど時間がかかるとは当初は全く思っていませんでした。

右京こまちの告白や、公爵となぎさちゃんの出会い、亀山弦一の言動など、書きたい場面が非常に多く、
例によって例のごとく、今作も三部作構成にせざるを得ません。2010年のうちに完結させたいのですが・・・。

後編もかなり長くなりそうですが、ここまででだいぶフラグを回収してこれたのもあってか、
中心となる場面が徐々に限られてくるのが、幸いです。

進藤リヴァイア