終わりの世界とグラサン少女




〜8〜



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目が覚めると、私はベッドの上に寝ていた。白いベッドの天蓋が視界に映る。
おそらくレニオルに連れ戻されたのだろう。

・・・右京こまちの言葉を思い出す。
水原君のことを好きだと言った、右京こまちの言葉を。

最初に右京こまちさんに会ったのは、清宮山でのことだった。
水原君の知り合いと聞いていたけれど、すごい美人でとても驚いた。
そんな人が、水原君のことを好きだ、と。

あれだけ正直に、私は誰かが好きだと言ったことはあっただろうか。
蒼谷君のことは、好きだ。結婚もお互い意識していた。でも、私は蒼谷君からの想いに甘んじていただけじゃないだろうか。
蒼谷君に、直接想いを伝えたことは・・・あっただろうか。



どうしてミニョルフは、私を連れ戻したのだろうか。
少し考えれば、誰でも考え付く。私が・・・国家国防省を裏切らないようにするためだ。
もし、あのまま右京こまちさんの言葉に引きずられていたら、私は右京こまちさんに着いて行っただろう。
何の疑いも無く、国家国防省の企みに賛同していた今までの私を恥ずかしく思って、改心していただろう。

それをミニョルフは妨害した。
そこまでして、どうして国家国防省が私の裏切りに怯えるのだろうか。
いや、国家国防省ではなく、ミニョルフの意思なのだろうか。それは解らない・・・。
でも・・・少なくとも私には利用価値がある、と考えたからこそ、進藤竜一は私に接触してきたに違いは無い。
そうでもなければ、進藤竜一は世界の本当の姿を教えてくれなかったし、ミニョルフは私に力をくれなかった。

・・・でも、ミニョルフが無理やり私を連れ戻したのは、失敗だった。
私にまだ利用価値があることを、わからせてしまった。裏切られたら困ることを、暗黙の内に示してしまった。

ならば、私のすることは・・・。
ここを出て、みんなと再び会うことだ。会って謝ろう。迷惑かけたことを。
そして、蒼谷君に私の想いを伝えよう。それが、今の私がやらなければならないこと。



ベッドから降りる。
部屋を見渡せば、高級そうな調度品が目につく。きっと普通に働いて稼いだお金ぐらいじゃ、買うことはできないものに違いない。
窓から外を見れば、ひたすらキレイな青空が広がっている。この都市の一番高い建物から見渡す景色に、障害は無い。
でも、そんなものに価値は無い。私にとって、こんなものは必要じゃない。

今、私が着ている服は、進藤竜一がくれた女性用のビジネススーツだ。
至るところに、武器が隠されている特注品だと言っていた。防水・防火にも優れているらしい。
こんな物騒なものを着させたことを、進藤竜一に後悔させるべきだろう。

部屋の外の廊下から、ゆったりとした足音が聞こえる。
使用人がこちらに向かっているのだろうか・・・?
ドアがノックされ「失礼します」と声がかけられる。それに私は返事をせず、静かにドアの死角に移動する。
ドアが開けられ、年若い男の使用人が1人入ってきた。私は、その男の背後に忍び寄り、的確に背中に蹴りを入れる。

「うわっ!?」

床に倒れ込んだ男には目もくれず、私はドアから外に飛び出す。
廊下に出ると、巡回中の見張り兵の男が私のすぐ傍に居たため、男は驚いて飛び退く。
しかし、男はすぐ体勢を取り戻すと、腰から短剣を出して、構えてきた。
いちいち相手にしていてもキリが無いと、私はビジネススーツから武器は出さずに、すぐに廊下を駆けだす。

「くそっ、大海なぎさが逃げたぞっ!」

男がそう叫ぶ。
・・・既に、私が逃げ出すことは、国家国防省にとって想定済みだったのかもしれない。
廊下の十字路の脇から、またしても巡回中の見張り兵が出てきた。しかも今度は3人である。
ここまで周到に配置されているとなると、進藤竜一は既に私の行動を見切っているのかもしれない。

「逃がさんぞ!」
「おとなしく部屋に戻ってもらおう!」

背後を振り向けば、部屋を出た時にいた見張り兵が1人追いかけてきていた。
引き返す方が得策・・・と思わなくも無い。けれど、この建物の出口からは遠ざかる。
ここは、強行突破しかない。

「力を・・・」

ミニョルフにもらった力を行使する。
脚がまるで、焼けるように熱くなる。

「・・・ごめんなさい。」

人間では考えられない速度で、正面に居た見張り兵3人の間をすり抜ける。
すり抜けると同じタイミングで、私の着ているビジネススーツに隠された武器の1つ、捕縛用ロープを使って、見張り兵たちの行動を奪った。
見張り兵たちは、気が付かないうちに捕まってしまったことに驚きの声を上げたが、それを私は無視して、先に突き進む。

エレベーターを使うことは得策ではない、と思った私は、非常階段を使って降りていくことにした。
もしエレベーターを使ったら、エレベーターを止められてしまった場合、まったく行動できなくなってしまう。
自ら袋小路に入るより、非常階段を使った方が、咄嗟の判断で途中の階に逃げ込むことができる。

そう、考えていた。しかし・・・

「待っていたよ。」

やはり、読まれていた。
進藤竜一が、非常階段前に、悠々と立ち塞がっていた。

「君は本当に聡明だよ。エレベーターは使うべきじゃないという非常事態の鉄則をきちんと守る。生き残るための秘訣だね。
 ただ、非常階段を使ったからと言って、確実な安全が約束されているとも限らない。」

不気味な微笑を浮かべる進藤竜一。

「・・・そうですね。もし地震や火災が発生した場合、非常階段を使おうとする人が殺到すればするほど危険性が増しますから。
 そう言う場合は、なるべく上に逃げた方が良いと・・・思います。」

その微笑に飲み込まれないように、私は緊張を保ち続ける。

「まぁ、そうだろうね。」
「・・・進藤竜一さん。私は、ここを出ていきます。短い間でしたがお世話になりました。」
「そうか、とても残念だよ。君のような人間を失うのは、私としても国家国防省全体としても、大きな痛手だよ。
 できれば考え直してほしいけど・・・でも、それは無理な相談かな?」

黙って、私は頷く。

「・・・ミニョルフが、君を強引に連れ戻してしまったことは、謝ろう。それに、君に大きな誤解を招いてしまった。
 別に君を利用しようとは、思っていないよ。ただ、君には世界の本当の姿を見て欲しかった。この物語の結末を見届けて欲しかった。
 夕波みつきの近くにいる人間のなかで、君が一番聡明だから・・・私は君を選んだんだ。」
「他の人じゃ、ダメだったんですか?」
「この物語の当事者じゃ、ダメなんだ。あくまでも、その役割は物語の傍観者がしなければならない。
 それに、夕波みつきのことが好きな人間じゃ無いといけないからね・・・。蒼谷ゆいが君の代わりになれないのは、そういう意味さ。」

物語。そう、残酷な物語。
愛する人と世界を救うために、人間をやめてしまった進藤竜一の物語・・・。
いや、進藤竜一というよりは、【水原月夜】と言った方が正しいかもしれない。

「君を投獄しないのは、君がそういった大切な役割を持っているからさ。」
「・・・それじゃあ、私を牢屋に入れてください。そうでもしないなら、私は、ここを出ていきます。」
「正気とは思えない。君は、世界の本当の姿を知ってしまったはずだ。もし、君が牢屋に入れば、本当に世界は滅ぶ可能性が出てくる。」
「あなたの話では・・・どこか1つでも物語を・・・運命を変えることができれば、世界は守れる、でしたよね。
 この私の発言の1つ1つが、決められた運命だとすれば、私はまるで運命を変えることはできません。」

・・・この私の存在、私の思考、私の発言、私の行動すべてが、定められた運命だとすれば・・・。

「・・・わかりました。」

進藤竜一は、どこか悔しそうな表情を浮かべた。
今まで何度も、この表情を私は見てきた。運命に抗おうとする進藤竜一の苦しそうな表情を。
どうして、私は支えてあげられないのだろう。手を差し伸べてあげられないのだろう。

「ミニョルフ、そこにいるんだろう?」
「・・・いつから、気づいていたんだい?」

進藤竜一が虚空に問いかけると、そんな返事が聞こえた。
背後に何かの気配を感じて振り向くと、いつの間にかミニョルフがそこにいた。

「わかるさ。大海なぎさを、投獄しておいてくれ。」
「・・・それで良いのかい? 君はあれだけ投獄を拒んだじゃないか。」
「それで、良い。本人の承諾付きだ。ただし、乱暴に扱ったら、いくらお前でも許さない。」
「おぉ、怖いね。わかったよ。」

ミニョルフは猫顔で笑みを浮かべると、私の顔に左手をかざした。

「それじゃあ行きましょう、お姫様。」

そう問いかけられるや否や、私は立ちくらみのようなものを起こした。
次にはっきりと視界が開けた時、私はそこが牢屋であることをすぐに理解した。
最初に国家国防省に連れてこられた時・・・私が目覚めた場所だ。



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上空に【クィドル】の群れを見据えながら、私はこの都市で一番大きな建物を目指していた。
この都市・・・国家国防省に入ってからというもの、人っ子1人さえ見当たらない。
見た目は普通の都会と変わらないにも関わらず、人も車も野良猫も居ないのが、かえって不気味に感じられる。

時折、この都市の地図を広げながら、現在地を確認する。
まだ【都市中央機構棟】への距離は、半分以上あるだろう。

【クィドル】たちに見つからないよう、ビルの影に隠れながら移動する。
無用な戦闘は出来る限りしたくないものだと思う。

「ちっ」

軽く舌打ちをする。空を飛んでいる【クィドル】以外の敵意を感じたからだ。
四方八方にあるビルの窓から、鋭い視線が私を貫こうとしている。

「・・・国家国防省は、警察の中でも優秀な人間を取り込んで、独自の軍的組織を形成している・・・か。」

亀山弦一からかつて聞いた言葉を反芻する。
その言葉が正しければ、注意しなければならないのは霊体だけではないということだ。
もっとも・・・優秀な”人間”程度では、私の相手にはなりにくいだろうが・・・。

「ふざけるなよ、進藤竜一。そこまでして、いったい何を企んでいる。
 夕波みつきを殺して世界を救うために、戦車まで持ち出すか。もはや戦争だな。」

私の突き進む大通りの脇道から、次々と重厚そうな戦車が出てきた。
戦車の砲門は、私に狙いを定めている。

ふと「水原たちは大丈夫だろうか」と呟いてしまう。
・・・やはり、好きになってしまったんだろう。この想いは、届くはずが無いのに。



ズガーン!



戦車から、続々と砲弾が飛んできた。私を殺そうとする砲弾が。
私はそれを見据えながら、ゆっくりと落ち着いて、腰の妖刀【影桜】を抜いて構える。
【紫炎帯】は既に刀身から放ち、左手に何重にも巻きつけている。

最初の1発が、私に届こうとする。
その砲弾を【影桜】で上段斬りで真っ二つに裂く。裂くと同時、呪いを発動させ、爆発を封じる。

「まず1つ。」

続けて、3つの砲弾が横並びに飛んでくる。
・・・攻撃の方法が甘い、と呟く。左から右に薙ぐように【影桜】を振り、3つすべてを切り裂く。
今度は、爆発を封じる呪いを使用しない。爆発で生じた煙と爆風を使って、一気に戦車との距離を詰める。
煙によって、戦車からは、私の居場所が掴めなくなったであろう。

「そして3つ。」

敵は波状攻撃に切り替えたらしい。煙と爆風が支配する大通りに、連続して砲弾が放たれる。
しかし、既に私は、戦車の攻撃からは死角になる位置に移動していた。傍のビルの壁だ。
左手に巻きついている【紫炎帯】は、伸縮自在で強度も高い。
それをうまく利用して、ビルから伸びているポールに【紫炎帯】を巻き付けて、私はビルの壁を走り抜ける。
煙を突破した時には既に私は、戦車のすぐ上のビルの壁に居た。
【紫炎帯】をビルのポールから解き、宙から一気に戦車へ距離を詰める。
上手く戦車の上に着地し、そのまま【影桜】で砲門を根本から斬る。さらに動力源と思われる部分に触れ、呪いを放つ。

「さて、あと何台だ?」

周囲を見渡すと、戦車はまだ10台以上残っていた。

「まぁ良い・・・。無益な戦闘はしたくないが、戦車と戦うのは初めてだからな。相手をしてやろう。」

そう呟いて、私は久しぶりに獰猛な肉食獣のような笑みを浮かべた。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



幻影のような、夢のような何かから目覚めた後、【都市中央機構棟】を1人目指し始めた僕は、
その途中で、右京こまちと戦車たちの戦闘の光景をビルの影から覗き込んでいた。

「・・・大海なぎささんとの戦闘は終えたようですね。」

右京こまちは、この都市の外側で大海なぎさと戦っていたはずだった。
僕たちが都市の中へ侵入してから、すぐに後を追ってきたのだろうか。そうでもなければ、この場所まで来るにはあまりにも早い。

「まぁ、とりあえず向こうは大丈夫そうですね。こちらが問題ですが・・・」

そう思って、僕は路地裏を駆け抜けはじめた。
僕の背後から、明らかに国家国防省の兵らしき黒いマントの人間たちが追いかけてきている。
まずは、彼らの対処が先決だろうか・・・。

ビルの間から差し込む太陽は、やや傾き始めていた。



>>



「どうだい?【クィドル】たちは・・・」
「・・・大丈夫です。通り過ぎました。」

公爵が水原にそう尋ねると、水原は安堵したように答えた。
その言葉で、緊張の糸が切れたかのように、私と蒼谷は胸を撫で下ろした。

「しかし、このままの状態では先に進むのは厳しそうですね。」
「済まないね。みんなの足を引っ張ってしまって・・・。」

公爵の脚は、未だに治りきってはいなかった。
痛みは少し引いてきている、と言ってはいるものの、まだ補助無しで歩くには難しそうな様子を見せている。

「そろそろ・・・先へ進もう。」

それにも関わらず、公爵はそんなことを言った。

「ここにずっといても、埒が明かない。」
「でも、そんな脚じゃ・・・」

私が心配そうな声を上げると、公爵は左右に首を振った。
大丈夫だから、心配しないで、そんなことを言いたそうな表情で。

「・・・わかりました。先に進みましょう。」
「ちょ、ちょっと水原、待てよ。まだもう少し、公爵の回復を待っても・・・」
「本人が大丈夫だと言っているんです。ならば、時間の惜しい僕たちは先に進むべきだと思います。」
「おい、待てって!」

蒼谷が、水原の襟首に掴みかかった。

「今の状況なら、俺でももう少しお前よりマシな考えが出来る!
 どう見たって公爵は自力で動けないだろ。それなのに、無理やり着いてこいって言うのかよ!」
「・・・苦しいので、とりあえず放してくれませんか? まだ僕の話は終わっていません。」
「くそっ!」

乱暴に水原を突き放した蒼谷は、そっぽを向いた。

「僕たちは【都市中央機構棟】に向かいます。ですが、向かうのは、僕と夕波先輩、そして蒼谷先輩の3人だけです。」
「お、おい、ちょっと待てよ、それって・・・。」

そう、声を上げて動揺したのは蒼谷だけでは無かった。
私もまた、水原の驚くべき発言を耳にして、声を出さずにはいられなかった。

「公爵を・・・置いて行くってこと?」
「そうです。」

水原の冷静な表情を見て、私は驚きを隠せなかった。
解っているはずなのに。この中で、一番戦えるのは他でもない公爵だってことが・・・。
公爵の方を見ると、公爵はただ俯くばかりで表情は固い。
・・・まさか、こう言われることを承知で・・・。

「この状態では、正直なところ、足手まといなだけだと僕は思っています。
 もちろん、万全な体勢なら、この4人の中ではもっとも霊や呪いに関して知識があり、戦闘力も高いのは事実ですが。
 しかし、今の状況を鑑みれば、烏丸公爵は戦える状況ではありません。」
「で・・・でも、脚が良くなるまでここで待っていれば。」
「ここで時間を浪費するのは、危険です。日が堕ちるまでに【都市中央機構棟】に到着しなければ、夜が来ます。
 外に出ていては、闇夜に紛れて【クィドル】のような悪霊が忍び寄ってくる可能性も十分あります。」
「でも・・・。」

公爵を一人置いて行って、大丈夫だろうか、という不安と。
公爵が居ない状態で、【都市中央機構棟】に向かって大丈夫だろうか、という不安が、私の頭によぎっている。

「水原君の言うとおりだよ。」
「公爵・・・。」

公爵は、顔を上げて、正面から水原を見据えて言った。

「今は、誰かが欠けたとしても、【都市中央機構棟】に向かうべきだよ。既にもっとも頼れるこまちさんとは別行動。
 この都市の構造や国家国防省について一番詳しい亀山さんとも逸れてしまった。それでも、ここまで来れたじゃないか。
 大丈夫さ、みつきちゃん。困った時は、一番頭のキレる水原君がいるんだから。」

私の方を見て、公爵は笑顔でそう話した。
今は、誰かが欠けたとしても・・・。

「ちゃんと動けるようになったら、すぐに後を追うよ。それで良いね?」
「・・・了解しました。」
「頼んだよ。」

水原は一度公爵に会釈すると、黙って屋上の端にある非常階段の方へ歩き始めた。
蒼谷も、それを見て慌てて後を追っていく。

「公爵・・・私は。」
「本当に、大丈夫だから。私のことは心配しなくていい。水原君に守ってもらいなさい。」
「・・・うん。」

ここで別れるのは、嫌だけど。

「それじゃあ、行ってくるね。」

でも、私は前に進まなければいけないから。

「公爵・・・気をつけてね。」
「みつきちゃんも、ね。」

水原と蒼谷の後を追いはじめる。
公爵の方を振り向くことはしない。もし振り向いたら、もう二度と前に進めなくなる気がするから・・・。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「ありがとう、水原君・・・。ありがとう、みつきちゃん・・・。」

みつきちゃんたちが非常階段を降りていく姿を見送ると、私はゆっくりとその場に座り込んだ。
正直に言うと、もはや立っていることすらできない状態だったのだ。脚の状態は、とても悪い。
悪魔の力を行使することは、身体に相当の負担をかけることはわかっていたが、まさかここまでとは思っていなかった。

「さぁ、みつきちゃんたちは行ってしまったよ。そろそろ姿を現したらどうなんだい?」

そう声をかけると、私の死角から、次々と全身を武装した人間が現れた。
その数、40人は超えているだろうか。よくもこれだけ、1つのビルの屋上に配置できたものだ。
武装した人間の1人が、私に銃を向けたまま声をかけてきた。

「烏丸祐一郎、お前を捕縛する。」
「・・・なぜ、みつきちゃんたちをわざと見逃すような真似を?」
「夕波みつきと水原月夜は、捕縛してはならないとの命令だ。」
「命令、ですか。」

みつきちゃんと水原君を捕縛してはいけない・・・?
何故だ。国家国防省は、みつきちゃんを捕まえて殺すのが目的じゃないのか。
それに、水原君も捕縛してはいけない、とはどういうことなのだろうか。

「捕縛しろ!」

その男の指示が下ると、一斉に武装した人間たちは私の方へ迫ってきた。
ここで抵抗しても、おそらく勝ち目はないだろう。

「私を、どこへ連れて行くつもりですか?」
「お前は黙って捕まっていればいい。教える義務は無い。」

成す術もないまま、私は捕縛されてしまった。
ハンカチを口に押し当てられたかと思うと、意識が朦朧としてきた。

ごめん、みつきちゃん。
後を追うことは・・・できなさそうだ。



続く