星の王子とグラサン少女
〜3〜
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八条と、この前来たビーチに、私は1人でやってきていた。
日差しがまぶしいため、グラサンをかけている。
結局、あの後、八条とこのビーチへ来ることは2度と無かった。
八条は・・・デートの約束をした3日後に、自宅の放火を受け、死亡したのだ。
放火の原因は、あのグラビアアイドルの報復のようで。
スクープ報道から、別れることを切り出した八条に対して、
怒りをもったグラビアアイドルが、深夜、犯行に及んだらしい。
「人を呪わば・・・なんとやら・・・か。」
悔しい。その気持ちが私を覆う。
せっかく、あの幸せな日々がまた訪れると思っていたのに。
また、このビーチで2人、夢について語り合えると思っていたのに。
涙が出てくる。
人前で涙を見せたくないからと、泣くときはグラサンをかけて。
そう決めているから、グラサンははずさない。
あの頃が、なつかしい。
あの頃に、戻りたい。
そう思う。
時は進む。年を取る。
でも、でも私の、心も体も小さい頃のまま。
目の前に、私が現れる。
「・・・大切な人をまた失ってしまったね」
目の前の私は、悲しそうな目で私を見る。
目線は、今の私と同じ。目の前の私は、幼い頃の私なのに。
「どうしてこうなっちゃうんだろうね」
目の前の私は、幼い頃の私のはずなのに、私と変わらない。
「・・・このビーチ、カメラに収めたら?」
「そうするよ」
目の前の私にそう言われ、私は腰に下げていた一眼レフカメラを構える。
そこに写るのは、誰もいないビーチ。静かなビーチ。
波の音がうるさいビーチ。
シャッターを切る音が、1回。2回。3回。
ふと、構えをほどくと、目の前にいたはずの私はもういない。
また、どこかへ行ってしまったのだろうか。
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八条の住んでいたマンションに来た。
ニュースを見て、駆けつけた私は、現場の凄惨さを目の当たりにした。
顔の聞いてくれる知り合いの警部がいたので、部屋のほうへ特別に案内してくれた。
「このように、ほとんど燃え尽きちまってる。みつきちゃん、お前、被害者と付き合ってたんだろ?」
知り合いの警部は、そんなことを聞いてくる。
黙ってうなずく私。
「・・・唯一焼け残ったのは、この部屋だけみたいだ。」
警部の指を指した先の部屋を覗く。
その部屋だけ、少し火が回った形跡はあるものの、生活感が残っている。
衣類・家具が散乱するなか、正面の壁の一角にコルクボードを見つけた。
写真が何枚も貼られている。幸い、ほとんど焼けた跡がなく、原型を留めている。
「これは・・・私の写真・・・」
大学生のときに、八条と付き合っていた間に撮った写真。
どれも風景写真で、八条が残す意味はあまり無いはずなのに・・・。
「・・・」
黙って、グラサンをかける私。
それをみた警部は、わかってくれたようで、この場を離れてくれた。
残す必要がないはずの写真・・・。
それを、ずっと残してくれていたということは・・・。やっぱり。
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警部にお願いして、八条が持っていた私の写真は、すべて私がもらった。
それらの写真を、ポケットから取り出す。
ビーチの横の階段に、ちょこんと座った私は、写真を見返す。
どの写真も、私にとっては、完璧な一枚ではなかった。
それなのに、八条は大切に持っていてくれた。
とてもうれしい。
涙は、もう出ない。
泣いてはいられない。
目の前に、私が現れる。
「時間が無くなってきたから。そろそろ立ち止まっている場合じゃないよ。」
目の前の私は、私にそう告げる。
やっぱり、そろそろタイムリミットが近づいているらしい。
その前に、夢を叶えよう。
時間が来る前に、夢を叶えよう。
お父さんが叶えられなかった、夢を。
八条にこのビーチで伝えた、夢を。
小さい頃の私が決めた、夢を。
写真をしまって、また、さっきのようにカメラを海に向かって構える。
写真を撮る。撮る。撮る。
カメラの構えを解く。
目の前の私は消えている。
いつの間にか、ビーチは夜空で覆われていた。
最近読んでいた、とある本を思い出す。
まるで、その本のお話に沿うかのような、出来事だった。
星の王子は、最後は星になってしまった。
私の王子は、最後は星になってしまった。
はっきり写るわけないのに、きれいな星空を写真に収めようと、カメラを構える。
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これが、僕にとって、この世で一番美しく、一番悲しい景色です。
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本の最後の文章にあったのを思い出す。
この星空は、一番美しく、一番悲しい。
それなのに、この写真はまだ完璧ではない・・・何かが欠けている。そう思う。
私の夢の実現は、まだはじめたばかりだ。
続く・・・?
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参考文献
「Le Petit Prince 星の王子さま」サン=テグジュベリ作 内藤濯訳 岩波書店 2000年
http://www.lepetitprince.co.jp/petit.html 「星の王子さま」
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この小説は、「Formula」さんが執筆されている「Another World」の中に登場する、
「グラサン少女シリーズ」という架空のライトノベルを小説化したものです。
「星の王子とグラサン少女」は、「Another World」に登場する「ゼヴルド」というキャラが読んでいたもので、
ちょっと、シンクロするような部分が混ざっていたりします。
(八条が火事で死ぬとかね)
当初は、タイトルからどんな話を書こうか結構悩みましたが、どうせならということで、
「星の王子様」とちょっとくっつけられるようにしました。
めちゃくちゃな文章作りです。それだけはごめんなさい。
シリーズで、結構伏線も張ってるので、回収できたらいいなぁ・・・と思ってます。
進藤リヴァイア
なお、読むに当たって。
>>>>>は、時系列が未来へ。
<<<<<は、時系列が過去へ移ります。
新たに挑戦してみた試みなので、少々読みづらいとは思いますが、察していただければ幸いです。